退職後に時間ができても、すぐに楽しく過ごせるとは限りません。新しい生きがいを探す前に、仕事を離れて何が変わったのかを、日々の暮らしから見てみます。
仕事と一緒に、いくつものものが変わる
仕事には収入だけでなく、起きる時刻、出かける場所、挨拶する相手、自分の役割などが含まれていました。そのため、退職すると仕事の負担は減っても、一日の区切りや人との接点まで少なくなることがあります。自由な時間を持て余すことを、ぜいたくな悩みと片づけなくてかまいません。
説明用の場面として、朝は以前と同じ時刻に起きるのに、行く場所がなく、午前中を落ち着かず過ごす日を考えます。この場合に足りないのは、大きな目標だけではないかもしれません。朝に身支度をする、近所で用事を済ませるなど、暮らしの区切りから取り戻す道があります。
退職が、心の負担を軽くする場合もある
退職の影響は、失ったものだけでは測れません。仕事の緊張や通勤から離れ、眠りや気持ちが楽になる人もいます。22件の縦断研究をまとめたレビューでは、精神面の健康に好ましい結果が整理された一方、身体や健康全般については結果がそろいませんでした[1]。退職すれば誰でも元気になる、逆に必ず衰える、と言えるものではありません。
このレビューでは、本人が望んだ退職かどうかや、元の仕事の違いを詳しく比べた研究は少なく、個人の退職時期を決める答えにはなりません。自分の暮らしでは、何から解放されたか、何がなくなって困っているかを両方見るほうが、次に必要なことを考えやすくなります。
次の肩書きを急がず、一度試せる予定から
再就職や地域活動を考える人もいれば、しばらく休みたい人もいます。どちらが正しいというものではありません。何か始めたいなら、毎週参加を約束する前に、一度見学する、短い講座へ行く、知人に話を聞くなど、試してから決められる形を選べます。
体力や移動、費用も合わせて考えます。行ったあとに疲れたなら、活動が向いていないと決める前に、時間を短くできるか、近い場所はないかを見る方法があります。人の役に立つことだけを探さず、自分がただ楽しめる時間を持つこともできます。
仕事が担っていたものを、次の一つの活動で全部取り戻そうとしなくてもかまいません。人と話す場、生活の区切り、収入の相談は、それぞれ別の方法でも持てます。「働き直すしかない」と考えていた人が、まず近所で短く人と会う時間を試すことも、その逆に、趣味を無理に増やさず自分に合う仕事を探すこともできます。足りない役割を分けると、新しい肩書きだけに急いで答えを求めずに済みます。
家にいる時間が増えたら、家族とも過ごし方を話す
家族には、これまでの家でのペースがあります。退職した側は一緒に過ごしたくても、相手は一人の時間を必要としているかもしれません。寂しさをすべて家族に埋めてもらおうとするより、「昼は別々に過ごして、夕食のあとに少し話したい」など、互いの希望を言葉にする方法があります。
家事も、手伝うかどうかだけでなく、自分で受け持つ用事を一つ決めると、日々の役割になり得ます。ただし、何か役に立っていなければ家にいてはいけない、ということではありません。休むことと、暮らしに参加することの両方を考えられます。
お金の心配と、気持ちの落ち込みを分けて相談する
収入や生活費が気になる場合、気持ちだけを前向きにしても解決しません。年金、就労、暮らしの制度など、必要な窓口に具体的な情報を尋ねられます。働くことを考えるなら、就労やキャリアの相談先を利用する方法があります。
心理相談では、仕事を離れた自分に価値がない気がする、家族にどう接すればよいか分からないといった気持ちを話せます。落ち込みや眠れなさ、食欲の変化が続く場合は、退職のせいと決めず医療にも相談してください。新しい目標を見つけることより先に、いまの生活と体調を支えることが必要な時期もあります。
参考資料・引用文献:厚生労働省:地域包括ケアシステム・地域包括支援センターの案内 / 厚生労働省「キャリアコンサルタントを探すには?」 / [1] van der Heide I, van Rijn RM, Robroek SJW, Burdorf A, Proper KI. (2013). Is retirement good for your health? A systematic review of longitudinal studies. BMC Public Health, 13, 1180. DOI:10.1186/1471-2458-13-1180.
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このコラムについて
本記事は一般的な心理情報の提供を目的とし、判断・支援の代替ではありません。記事で紹介する心理療法・支援法のすべてを当サービスが提供していることを示すものではありません。体調や安全に不安がある場合は、医療の窓口または地域の相談窓口をご利用ください。
