家族の病気が進み、まだ起きていない別れが怖いとき

まだ一緒に過ごしている家族との別れが怖くなっても、その人を大切にしていないという意味ではありません。先のことを心配する時間と、今日を過ごす時間を、どちらも持ってよいのです。見通しを確かめる相談と、自分の気持ちを支える相談を分けると、抱えるものを少し具体的にできます。

病気が進むとき、失う怖さは一つとは限らない

病状の説明を受けたあと、帰りの電車で急に涙が出る。会えば笑って話せるのに、帰宅すると「次はもう会えないのでは」と考える。明日の予定を入れるだけでも、家族を置いていくような罪悪感が生まれることがあります。

怖いのは死そのものだけとは限りません。相手が苦しむこと、意思を確かめられなくなること、いつでも連絡を受ける生活、仕事や家計の変化など、別々の心配が重なっている場合があります。すでに一緒に出かける時間や会話の形が変わり、その寂しさもあるかもしれません。

死別前の家族の悲しみは、「予期悲嘆」「死別前の悲嘆」などと研究されてきました。ただし定義は一様でなく、先に悲しめば死別後が楽になるという仮定も、研究では確認されていません。[1] 今の気持ちに名前がつくことが助けになる人もいれば、名前よりも「今夜眠れない」を話したい人もいます。どちらからでも相談できます。

希望と準備を、二者択一にしなくてよい

「もう一度一緒に食事をしたい」と願うことと、急な変化があったときの連絡先を確かめることは、同時にできます。準備をすることは、回復への希望を捨てる宣言ではありません。一方、周囲が準備を急ぐからといって、今すべての話を受け止められる必要もありません。

説明用の例として、家族のがんが進行し、次の治療の相談と自宅での生活の相談が必要になった場面を考えます。「よくなる可能性が少しでもあるなら治療を続けたい」という本人の思いと、「夜に苦しくなったらどうしたらよいか」という家族の疑問は、同じ場で確かめられる別の問いです。

治療の選択では、本人が何を大切にしたいかを軸に医療者と話すことが大切です。家族が望むことと本人が望むことが違う場合や、説明を理解する余裕がない場合も、担当医、看護師、がん相談支援センターなどへ相談できます。[2] 家族が一人で最適な答えを考え、本人を説得しきる仕事を背負う必要はありません。

不安を「確認したいこと」と「答えのない怖さ」に分ける

今ある不安のすべてに、正確な答えが出るとは限りません。それでも、医療者に確かめることで動ける部分と、答えがないまま支えが必要な部分を分けられます。余裕があるときに一つだけ言葉にして、診察や相談の場へ持っていく方法があります。

気になっていること 相談の入口
どんな変化があれば連絡するのか 担当医・看護師に、症状と連絡方法を確認する
仕事と付き添いを両立できない 医療ソーシャルワーカーや職場の正式な窓口へ、使える支えを尋ねる
いつ失うのか考えて眠れない 見通しの説明に加え、自分自身の心身のつらさを相談する

「あとどのくらいですか」と聞くのが怖い場合は、「見通しを知りたい気持ちと、聞くのが怖い気持ちがあります」と、その戸惑いから話せます。説明を聞く範囲やタイミングも医療者と相談します。本人の情報について、家族へどこまで伝えられるかは、本人の意向や状況を含めて確認が必要です。

大切な時間を、後悔をなくす課題にしない

「今しかない」と思うほど、毎回の面会を特別な思い出にしなければと苦しくなることがあります。大事な話を全部する、写真を残す、関係を修復するなど、何を選ぶかは本人とあなたの関係によって違います。体調や気分のために、今日は短い挨拶だけで終わることもあるでしょう。

「何かしたいことはある?」と尋ねる余地があるなら、相手の返事に合わせて考えられます。何も求めない時間や、普段通りの話をする時間もあります。これまで難しい関係があった場合に、病気を理由に和解や付き添いを引き受ける義務はありません。安全や生活を守る距離も含めて相談できます。

先のことを考えずに過ごせた日があっても、忘れていたことにはなりません。反対に、会っている間も悲しかったからといって、その時間を台無しにしたわけではありません。「後悔のない別れ」を達成目標にするより、今日の体力と相手の希望の範囲で、何を選べるかを考えられます。

家族自身の相談は、本人の支援と並べて使える

病気の本人が一番つらいのだからと、自分の食事や睡眠を後回しにする必要はありません。がんの進行・再発の場面では、家族が担当の医療者や心理職などに、自分のつらさや困りごとを相談してよいと案内されています。[2] ほかの病気でも、まず通院先へ家族が使える相談先を尋ねられます。

心理相談には、病状を変える役割や、悲しみを正しい順番で終わらせる役割はありません。「会う前から泣きそうになる」「親族には弱音を言えない」「仕事中も連絡が気になる」など、今の生活から話せます。気持ちの時間と、家事や付き添いの分担を相談する時間を、別々に確保することもできます。

親族同士で心配の仕方が違うときも、誰が一番愛しているかを決める必要はありません。「今は病状の話を聞く余裕がない」「次の説明は一緒に聞いてほしい」と、必要な関わりを具体的に頼めます。頼める家族がいなければ、そのことも医療機関の相談担当者へ伝えられます。

食事や水分を取りにくい、眠れず日中の安全が保てないなど、体調への影響があるときは、ご自身も医療へ相談してください。落ち着いて説明できる日を待たなくて大丈夫です。今持ち帰れるのは、別れを受け入れる答えより、「自分も支えを使ってよい」という相談の入口かもしれません。

関連する内容は、大切な人との別れや喪失に向き合うとき、高齢期に大切な人と死別したとき、介護を担う家族が疲れたときでも読めます。

参考・引用文献

  1. Nielsen, M. K., et al. (2016). Do we need to change our understanding of anticipatory grief in caregivers? A systematic review of caregiver studies during end-of-life caregiving and bereavement. Clinical Psychology Review, 44, 75–93. doi:10.1016/j.cpr.2016.01.002.
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス「家族のがんが進行・再発したとき」

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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