高齢期の住み替えは、安全や家族の都合だけでは決めにくい選択です。まず本人が今の暮らしで続けたいことを聞き、必要な助けと住まいの候補を考えていきます。
「ここにいたい」には、暮らしの理由がある
家族には階段や夜の見守りが心配でも、本人には近所の友人、通い慣れた店、庭の手入れなど、離れたくない日常があるかもしれません。「危ないから引っ越そう」という話だけでは、その大切さが置き去りになることがあります。
例えば、家族の近くへ移れば安心だが、本人は毎朝の近所付き合いを失うのが心配な場面を考えます。「安全か自由か」という二択にせず、近所に会いに行けるか、今の住まいで支援を増やす方法はあるかなど、気になることを具体的に確かめられます。
本人の力と、住まいの条件の組み合わせを見る
WHOの高齢期の枠組みでは、望むことを実際に行えるかは、心身の力だけでなく、環境との組み合わせで変わると考えます。「人と環境の適合」という見方です。[3] 例えば同じ歩行の状態でも、階段、移動手段、近くで頼める手助けによって、外出のしやすさは違います。住み続けられるかを、本人の頑張りだけで判断しない理由です。
「何でも自分でできるか」より、「続けたいことに、どんな支えがあれば届くか」を考えます。散歩が大切なら玄関から道路までの道、友人との交流なら移動と連絡の方法までが比較の対象です。便利な建物でも、本人が大切にしている生活に届くとは限りません。
候補によって、変わるものを比べる
| 考える候補 | 確かめたいこと |
|---|---|
| 今の家で支援を増やす | 必要な手助けをいつ受けられるか。家族がいない時間の安全をどう守るか。 |
| 家族の近くへ移る | 通院や買い物、人付き合いはどう変わるか。家族は何をどこまで担えるか。 |
| 施設や高齢者向け住まいを利用する | 必要な支援、暮らしの自由、費用が合うか。夜や体調変化のときにどんな対応があるか。 |
同じ施設名や住まいの種類でも、受けられる支援や費用は違います。部屋の印象だけでなく、食事、外出、面会、持ち込める物、医療や介護の対応など、自分の日常に関わることを担当者へ尋ねます。月額の表示以外に何がかかるかも、具体的な説明を受けて確認してください。
見学のあと、本人の感想から聞く
見学したその場で決めるのではなく、「どこが落ち着いた?」「気になったことはあった?」と、本人の言葉を先に聞けます。家族も、安心した点と引っかかった点を別に話します。意見が違う場合は、誰が正しいかより、まだ何を確かめていないかを考えます。
家族が担える範囲も大事な話です。「今の家で暮らしてほしいけれど、毎晩見に行くことは難しい」といった事情を隠して約束すると、後で続かなくなる場合があります。本人の希望と家族の限界を、どちらも支援の担当者へ伝えられます。
見学での印象と、毎日の暮らしは分けて確かめます。見学中は静かでも、普段の食事や夜の過ごし方は違うかもしれません。「何時に自分でお茶を飲めるか」「体調が悪い日に誰へ伝えるか」のように、いつもの一日へ置き換えて質問できます。できると説明されたことは、具体的な条件も聞きます。[1]
住み替えを選んだ場合も、最初の選択だけで完結するわけではありません。持ち込みたい物、続けたい連絡や習慣を伝え、暮らし始めて困った点は、施設の担当職員や地域包括支援センターなど、住まいに応じた窓口へ相談できます。新しい場所へ早く慣れることだけを本人の課題にせず、環境の側も調整できるかを相談します。
決めきれないときは、住まいの相談と気持ちの相談を
地域包括支援センター、ケアマネジャー、市区町村などでは、使える支援や住まいを相談できます。医療上の必要がある場合は、主治医や退院支援の担当者にも話します。家族だけで候補を選び切る必要はありません。[2]
心理相談では、住み慣れた場所を離れる寂しさや、施設を考える罪悪感、家族の意見が合わないつらさを話せます。どの施設がよいかを心理職が判定するものではありませんが、何を大切にして決めたいかを考える時間にできます。今すぐ決めない場合も、次に誰へ何を聞くかを一つ残しておくと、話が止まったままになりにくくなります。
参考・引用文献
記事のつくり方
記事ごとの関連資料は本文末尾に掲載しています。情報源の選定、更新、訂正、心理療法・心理検査の掲載範囲については、記事のつくり方を確認できます。
このコラムについて
本記事は一般的な心理情報の提供を目的とし、判断・支援の代替ではありません。記事で紹介する心理療法・支援法のすべてを当サービスが提供していることを示すものではありません。体調や安全に不安がある場合は、医療の窓口または地域の相談窓口をご利用ください。
