望んだ引っ越しなのに前の暮らしが恋しいとき|転居後の寂しさを話す

自分で望んだ引っ越しでも、前の暮らしが恋しくなることはあります。新しい住まいを選んだ理由と、離れて寂しいものは、両方あってよいのです。住まいの条件への不満、慣れない負担、以前の場所への思いを分けると、今必要な調整を考えられます。

前の街には、住所以外の暮らしがあった

帰りに寄る店、迷わず歩ける道、顔を合わせるだけの人、窓から見える景色。引っ越すと、親しい友人だけでなく、説明せずに過ごせた環境や、小さな日課も変わります。新居の設備や通勤がよくなっていても、その喪失感がなくなるとは限りません。

ホームシックの研究では、もとの場所から離れた寂しさと、新しい場所での負担を分けて考える重要性が論じられています。[1] ただし、研究の多くは一時的な滞在や学生などを対象にしており、すべての成人の転居を同じ枠で説明できるわけではありません。ここでは、寂しさの中身を整理するための視点として使います。

「便利なのだから満足しないと」と自分へ言うより、「暮らしやすくなった点はある。でも、帰り道に寄れた店がなくて夕方が寂しい」と、違う部分を並べられます。よい条件を選んだことと、失った日常を惜しむことは矛盾しません。

新居への不満と、前の暮らしへの思いを分ける

ここからは説明用の例です。通勤を短くするため転居したのに、休日に何をしてよいか分からず、以前の街の写真を見て過ごす場面を考えます。「引っ越しは失敗だった」とまとめる前に、住まいの現実的な問題と、前の暮らしへの恋しさを分けてみます。

気になっている内容 考えられる相談
設備や契約、騒音など具体的な問題 管理者や契約・住まいの正式な窓口で確認する
店や交通、医療機関が分からない 今必要な生活情報を、一つずつ調べる
前の街の人や日課が恋しい つながりを残す方法や、寂しさを話す場所を考える

実際に安全や健康を損なう条件があるなら、気持ちの切り替えで耐えるだけにしなくてかまいません。一方、旧居への寂しさがあることだけで、すぐ戻るべきとも決まりません。選び直す可能性を否定せず、今の条件を確かめてから考えられます。

以前のつながりを、全部手放す必要はない

新生活に慣れるため、前の友人への連絡や旧居の写真を断たなければならないという決まりはありません。つながりが支えになることも、連絡した直後に寂しさが増すこともあるでしょう。何が今の自分を支えるかは、一つの方法に固定できません。

説明例なら、以前の友人と話す予定を先に決める、旧居へ行く頻度を費用や体力に合わせて考える、好きだった日課の一部を新居でも続けるなどの案があります。反対に、思い出へ触れる余裕がない日は、その話題から離れてかまいません。忘れるか執着するかの二択にしなくてよいのです。

連絡する相手には、「戻りたいと結論を出したいのではなく、前の暮らしが恋しい話を聞いてほしい」と伝えられます。話した結果すぐ楽にならなくても、その方法が失敗だと決まるわけではありません。どんな関わりがほしいかを、少しずつ調整できます。

新しい場所では、親友づくりより日課を一つ

知らない土地に来たのだから地域活動に参加し、人脈を広げるべきと言われると、さらに疲れるかもしれません。新しい関係を積極的に作ることが、全員の最初の目標ではありません。まず、食事を手に入れる店、通院先、気楽に歩ける道など、暮らしの足場から考えられます。

英国NHSは、引っ越しを含む生活の変化が、望んでいた場合でもストレスになり得ると説明しています。[2] この時期に、新しいことをすべて好きになる必要はありません。説明例なら、休日に一か所だけ行き、疲れたら帰る予定も持っておく方法があります。外出できない日は、家で過ごしやすい場所を整えるだけでもよいでしょう。

経済的な事情、移動の難しさ、言語や文化、家族の都合などで、選べる行動は違います。「近所へ出れば解決」という助言が合わない事情も相談できます。地域とのつながりが少ないことを、本人の社交性の足りなさへまとめないことが大切です。

家族と同じ気持ちでなくても、暮らしは相談できる

同居する人は新居を気に入っていて、自分だけが寂しい場合もあります。「気に入らないのか」と受け取られるのが怖ければ、「通勤は楽になったけれど、日中話す相手がいなくなったことがつらい」と、条件と気持ちを分けて伝える案があります。

必要な用事や家事の分担も、新しい環境に合わせて確認できます。以前と同じ担当でも、買い物までの距離や手続きが変われば負担は違います。気持ちを話すだけで終わらず、何が実際に増えたかを一緒に見ます。一人で転居した場合は、その用事の負担を相談できる窓口や知人を別に探せます。

本人が十分に選べなかった転居なら、そのことも話せます。家族の介護や仕事の都合で、望みを後回しにせざるを得なかった場合に、「前向きに選んだ自分」を作る必要はありません。選択の自由がどこにあり、どこにはなかったかを分けることも、相談になります。

落ち着く期限を決めず、生活への影響を伝える

心理相談では、「便利な家なのに帰りたくない」「以前の街の話ばかりしてしまう」「寂しさを家族に言えない」と、まだ整理できていないまま話せます。新居に慣れたかどうかを採点するより、どの時間や場面に支えが必要かを考えます。

眠れない、食事が取れない、仕事や外出が難しいなどの影響が続く場合は、転居後だからと我慢せず医療へも相談してください。「何か月で慣れるはず」という期限を、助けを求める条件にする必要はありません。新しい暮らしを続ける工夫と、選択を見直す相談を、同時に持つこともできます。

今日持ち帰れるのは、「前の何が恋しいか」と「今の何を一つ整えたいか」という二つの問いです。前の暮らしを大切に思う自分を残しながら、今の場所で必要な支えを探せます。

関連する内容は、異動・昇進・転職後のストレス、進学・就職で環境が変わるとき、高齢者の住み替え・施設入居を考えるときでも読めます。

参考・引用文献

  1. Stroebe, M., Schut, H., & Nauta, M. (2015). Homesickness: A systematic review of the scientific literature. Review of General Psychology, 19, 157–171. doi:10.1037/gpr0000037.
  2. NHS. Every Mind Matters: Life changes.

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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本記事は一般的な心理情報の提供を目的とし、判断・支援の代替ではありません。記事で紹介する心理療法・支援法のすべてを当サービスが提供していることを示すものではありません。体調や安全に不安がある場合は、医療の窓口または地域の相談窓口をご利用ください。