望んでいた異動や転職でも、つらくなることはあります。新しい仕事に加え、人の名前、頼み方、職場独特の進め方まで覚える時期は、見た目以上に力を使います。
同じ資料を作るのにも、知らないことが多い
説明のために、前の職場では慣れていた資料作成が、新しい職場では進まない場面を考えます。書き方が分からないだけでなく、どこまで自分で決めてよいか、誰に見せるか、過去の資料がどこにあるかも分からない。こうした迷いは、作業そのものとは別に時間を使います。
「前はもっとできた」と比べると、いま必要な助けが見えにくくなることがあります。「作り方が分からない」のか、「完成の目安が分からない」のか、「質問する相手がいない」のか。一つだけ言葉にすると、尋ねる内容が小さくなります。
知識と、教わる機会を分けて考える
仕事を進める力は、本人が持つ知識だけでは発揮できません。完成の目安、相談できる相手、判断してよい範囲が分かって初めて、以前の経験を使える場面もあります。「自分が何を知らないか」と「職場でまだ説明されていないこと」は同じとは限りません。教わる機会の少なさを、適性のなさに置き換えないことが大切です。
新しい役割では、学ぶ時間と成果を出す時間が重なります。周囲が何をいつまでに期待しているか、自分はどこまで分かったと思っているかに違いがあると、見通しが持てません。「今月は何をできるようになるとよいですか」と、当面の目安を確認することは、評価を避けるためでなく、力を使う先を合わせるための質問です。
質問をため込まないための聞き方
何度も聞くのが申し訳ないときは、「今日の作業で二つ確認したいです。何時ごろなら伺えますか」と時間を頼む方法があります。完成してから大きく直すのが心配なら、「最初の一枚を作ったところで、方向が合っているか見てもらえますか」と途中で見てもらうこともできます。
昇進したばかりで弱音を言いにくい場合も、「部下の相談と自分の仕事が重なったとき、何を優先するか相談したいです」と、いまの役割に沿って話せます。新しい立場になったからといって、判断をすべて一人で背負う必要はありません。上司、同じ立場の人、社外の相談相手など、質問できる場所を持てると助かります。
同じ失敗が続く場合も、注意力だけを課題にせず、手順がまだ不明なのか、情報が届く時期が遅いのか、時間が足りないのかを考えます。本人の工夫で変わった部分と、周囲の説明や仕事量が変わって助かった部分を見ると、次に必要な支えを選びやすくなります。慣れる努力と、働く環境への働きかけを並行して考えられます。
家に帰ってからも、慣れる努力を続けない
昼間に緊張が続くと、帰宅してから反省したり、翌日に備えて調べ続けたりしがちです。学ぶことが必要でも、毎晩すべてを取り返そうとすると休む時間がなくなります。明日聞くことを一つ残して、今日は仕事から離れる区切りを作ってみてください。
休日に新しい人間関係を広げる余裕がなければ、慣れた食事や、気を張らずに話せる人との短い連絡を大切にする過ごし方でもかまいません。新しい環境で頑張る自分に、私生活まで早く充実させる課題を増やす必要はありません。
「慣れれば大丈夫」と言い切れないとき
慣れるまでにかかる時間は、人や仕事によって違います。ただ、説明がないまま責任だけが増える、質問すると威圧される、勤務時間が聞いていた話と違う場合は、慣れの問題だけではありません。担当する範囲や教わる機会について職場と話し、難しければ人事や社外の労働相談を利用できます。
心理相談では、期待に応えたい気持ちと、今はついていけない怖さを話せます。続けるかどうかを担当者に決めてもらうのではなく、試せる手助けと、これ以上無理をしたくない点を考えられます。睡眠や食事の乱れが続く、出勤の準備ができないほどつらい場合は、医療や産業保健にも相談してください。職場に合うかを判断する前に、今の体調を守ることも必要です。
参考資料・引用文献:厚生労働省「こころの耳・15分でわかるセルフケア」
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このコラムについて
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