部下の相談を抱え込み、管理職の自分が疲れているとき

部下を大切にしたいことと、自分一人で悩みを解決しなければならないことは同じではありません。管理職自身が相談を使い、仕事上の対応と専門家の支援を分けることができます。

話を聴いた後まで、ずっと責任が残るとき

説明用の例です。部下から「眠れないが、誰にも知られたくない」と言われ、上司が連日残業して仕事を引き受けます。夜も連絡を確かめ、返事が遅いと何か起きたのではと心配する。部下のために始めたことが、自分の睡眠や家庭の時間を削っているとします。

この場面では、部下の苦痛、仕事量の調整、健康上の判断、個人情報の扱いが一人の上司に集まっています。親身に聴くことは大切でも、どの状態かを診断することや、夜間を含めて安全を保障することまで上司が引き受けると、必要な支援につながりにくくなる場合があります。

厚生労働省のラインケアの教材も、管理職が気づきや職場での対応を担う一方、病気の有無の判断は医師の役割と説明しています。[1] 部下に関心を持つことと、治療者になることを分ける理由は、冷たく距離を取るためではなく、役割に合う助けを届けるためです。

聴くこと、仕事を変えること、健康を診ることを分ける

先ほどの例なら、まず「話してくれてありがとう。今の仕事で何が一番きついか、今日はそこを聞きたい」と、扱う範囲を示せます。私生活の理由を全て尋ねなくても、締め切り、対人対応、勤務時間など、上司が判断できる業務の問題を確認できます。

そのうえで、眠れなさが続くことは産業医・保健師や医療機関に相談する内容として分けます。「病院に行けば解決する」と職場側の負担を置き去りにしないことも大切です。仕事の量を決められる人が決め、医療で確認することは医療へつなぐという、別々の対応になります。

管理職に権限が足りない場合は、そのことを自分の努力で埋め続ける必要はありません。上位の管理者や人事へ、人員や担当の調整を相談します。WHOは、過大な負担や役割の不明確さ、支えの不足を職場のリスクとして挙げています。[2] 部下を支える担当者の疲労も、組織の働き方の中で考える話です。

「誰にも言わない」と約束する前に、扱いを説明する

部下が知られたくないと言う背景には、評価への不安や過去の経験があるかもしれません。その怖さを聴きながら、「ここで聞いたことを勝手に広めるつもりはありません。ただ、健康や安全のため専門家への相談が必要な場合があるので、誰に何を伝えるかを確認したい」と、できる約束の範囲を説明できます。

健康情報の指針では、収集の目的、扱う人と情報の範囲、本人同意の方法等を明確にする考え方が示されています。[3] 会社の窓口へ渡すからと、相談内容をそのまま全部転送してよいという話ではありません。勤務上必要な情報と、相談の私的な詳細を分け、職場の規程と専門担当者の助言を確かめます。

本人が専門窓口をためらうとき、上司自身が対応を相談する方法もラインケア資料で案内されています。[1] その際も、本人を特定する情報をどこまで扱う必要があるかを先に確かめます。匿名で尋ねられるか、正式な連携が必要かは窓口によって違います。「本人が嫌がるから何もできない」と「本人に知らせず全て渡す」の間に、相談できる余地があります。

緊急時と、日々の相談時間を混ぜない

夜間の連絡を上司の私的な携帯だけが受け続ける形では、上司が眠っている時間や休暇中に支えが途切れます。通常の連絡窓口、勤務外の扱い、切迫した状態で使う医療・緊急の支援は、会社の専門担当者と確認しておく必要があります。「私にいつでも連絡して」と約束するより、使える経路を複数にする方が役割は明確になります。

本人の生命や身体に差し迫った危険が疑われる場合は、通常の面談日を待ったり、上司だけで見守り続けたりせず、職場の緊急手順や救急医療等につなぐ必要があります。秘密の約束を守ることだけを理由に、切迫した危険を一人で抱えないでください。本人へ説明できる場合には、何をするかを伝えます。

危険が切迫していない日常の相談では、使える時間を決めることもできます。「今日はあと15分なら聴けます。続きは明日、産業保健への相談も含めて考えたい」と伝えることは、相談を拒むことと同じではありません。部下の反応を完全に予測してからでなく、役割の範囲を説明していけます。

上司の気持ちも、別の相談で扱ってよい

「自分がもっと早く気づけば」「専門家に渡すと見放したようだ」といった気持ちは、実務の手順を知っても残ることがあります。心理相談では、部下の詳しい私的情報を大量に持ち込まなくても、管理職自身の不安や罪悪感、抱え込む流れを話せます。相談の対象は、来ていない部下の診断ではなく、あなたの体験と担える範囲です。

説明用の相談の一言:「部下の安全が心配で、勤務外も気が抜けません。私が決める仕事上のことと、専門家につなぐこと、今は引き受けられないことを整理したいです。」

ALVARAの個人相談は18歳以上が対象です。管理職本人の心理的な負担は相談できますが、部下を診断したり、会社の対応の適法性や勤務措置を決定したりはしません。業務上の正式な助言は、産業保健・人事労務や必要な専門窓口へ相談してください。

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参考・引用文献

  1. 厚生労働省「こころの耳」15分でわかるラインによるケア
  2. World Health Organization(2026年9月15日)Mental health at work
  3. 厚生労働省(2022年改正)労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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このコラムについて

本記事は一般的な心理情報の提供を目的とし、判断・支援の代替ではありません。記事で紹介する心理療法・支援法のすべてを当サービスが提供していることを示すものではありません。体調や安全に不安がある場合は、医療の窓口または地域の相談窓口をご利用ください。