褒められても受け取れないとき|評価と自分の実感のずれを考える

褒められてもすぐ喜べないとき、無理に自信のある返事を作る必要はありません。何を評価されたのか、そこからどんな期待を感じたのか、自分にはどんな実感があるのかを分けると、受け取りにくさの中身が見えてきます。

良い評価なのに、なぜ落ち着かなくなるのか

「説明が分かりやすかった」と言われたのに、次も同じ水準を求められる気がする。「すごいね」を社交辞令だと思って打ち消したくなる。褒め言葉そのものより、そのあと注目されること、失敗できなくなることが負担なのかもしれません。

社会不安の研究では、悪い評価への恐れに加え、「肯定的な評価への恐れ」も検討されています。[1] ただし、褒められるのが苦手という一場面だけで社会不安症とは決まりません。この研究は、よい言葉が必ず安心として受け取られるとは限らないことを考える、一つの視点です。

人前で褒められるのは困るが、個別の感謝はうれしい人もいます。外見への評価は望まないが、仕事の工夫なら聞きたいこともあるでしょう。「褒められるのが嫌い」と一括りにせず、誰から、何について、どんな場で言われたかを分けて考えられます。

相手の評価と、自分の実感を同時に残す

自分の中では説明を間違えた箇所が気になっていても、相手には全体が分かりやすかったのかもしれません。「自分は不十分だった」と「相手には役に立った」は、両方あり得ます。相手の評価を認めるために、すべての反省を捨てる必要はありません。

自分についての既存の見方と、他者の評価の一致を扱う「自己確証」の研究では、人が単に好意的な評価だけを求めるとは限らないことが検討されています。[2] これは、自分を嫌っているから褒め言葉を拒むと断定するものではありません。慣れた自己理解と違う情報に、戸惑う余地を考える枠組みです。

「そんなことありません」と即座に全否定する代わりに、「そう感じてもらえたのですね」「具体的に言ってもらえて助かります」と、相手の経験として受け取る返事もあります。心から納得した顔を演じる課題にする必要はありません。短い「ありがとうございます」で会話を終えてもかまいません。

一度の褒め言葉を、将来の契約にしない

ここからは説明用の例です。資料を出したあと「見やすくて助かった」と言われ、帰宅してから「次回はもっと良くしなければ」と不安になった場面を考えます。実際の言葉で評価されたのは、今回の資料の見やすさです。次の資料も一人で全部引き受けることまでは、必ずしも頼まれていません。

分けてみるもの この例では
実際に受けた評価 今回の資料が見やすかった
自分が足した予測 今後も必ず同じ以上を期待される
必要なら確認すること 次回の担当、期限、求められる範囲

「褒められたら断れない」と感じるなら、感謝への返事と、次の依頼への返事を分けられます。「そう言っていただけてうれしいです。次の件は、今の担当と締め切りを確認してからお返事します」という案もあります。評価を受け取ることは、無制限に仕事を受ける約束ではありません。

現実に「できる人なのだから」と過大な仕事が追加されているなら、それは不安の持ち方だけの問題ではありません。業務量や評価基準は、管理者や人事などの正式な窓口で確認する対象です。気持ちを整理する相談と、職場の条件を変える相談を分けて持てます。

受け取り方の違いを、無理に一つへ直さない

「もっと素直に喜ばないと相手に失礼」と自分を追い込むと、褒められるたびに返事を採点することになります。うれしさが後から来ることも、何も感じないこともあります。相手への礼儀と、その瞬間に自分が何を感じるかは、同じ条件ではありません。

具体的な評価なら、今後の参考として残す方法もあります。「私は優秀だ」と大きく言い換える代わりに、「見出しを先に整理したところは相手に伝わった」と、今回の工夫を一つ認める程度でよいのです。うまくできた点を探す作業が新しい義務になるなら、いったんしなくてもかまいません。

不適切な外見評価や、私生活への立ち入りまで受け入れる必要はありません。返事をしにくいのが、その言葉の内容や力関係のためなら、「褒められ慣れていない自分」を直す前に、距離や相談先を考えます。褒め言葉という形でも、自分が望まない扱いには境界を持てます。

相談では、褒められた直後から話せる

心理相談には、「よい評価の後ほど、次の失敗が怖くなる」「本当の自分を知られたらがっかりされそう」と伝えられます。言葉を聞いた瞬間の思い、返事、その夜の行動までたどると、どこで負担が増えるかを考えやすくなります。幼少期までの原因を先に確定する必要はありません。

研究[1]は主に大学生を対象とした尺度開発の結果であり、この記事の整理だけで診断や治療方針が決まるものではありません。質問項目や点数を自己採点するより、自分が困る具体的な場面を相談の材料にしてください。日常や仕事を避けるほど怖い場合、気分や睡眠にも影響している場合は、医療で相談する選択肢もあります。

もし相談中に褒められることまで負担なら、それも担当者へ伝えてよい内容です。「励まされると次もよく話さないといけない気がする」「評価より、何が起きたかを一緒に整理してほしい」と言えます。支援の場であっても、よい反応を返す役目を引き受ける必要はありません。どんな言葉なら受け取りやすいかを話すことも、相談の進め方を選ぶ一部です。

「自信を持てる人になる」以外にも、相手の評価をすべて否定せず置いておくこと、過剰な期待を自分で背負わないこと、望まない評価への距離を持つことが相談の目的になります。褒め言葉と、自分の実感がずれたままでも、その間を丁寧に考えられます。

関連する内容は、自分を責め続けてしまうとき、スキーマ療法とは、完璧にしようとして仕事が終わらないとき|着手・修正・提出を整理するでも読めます。

参考・引用文献

  1. Weeks, J. W., Heimberg, R. G., & Rodebaugh, T. L. (2008). The Fear of Positive Evaluation Scale: assessing a proposed cognitive component of social anxiety. Journal of Anxiety Disorders, 22, 44–55. doi:10.1016/j.janxdis.2007.08.002.
  2. Swann, W. B., Pelham, B. W., & Krull, D. S. (1989). Agreeable fancy or disagreeable truth? Reconciling self-enhancement and self-verification. Journal of Personality and Social Psychology, 57, 782–791. doi:10.1037/0022-3514.57.5.782.

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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