決めた後も「別の選択が正しかった」と考え続けるとき

選んだあとに後悔が出ても、その選択が間違いだったとすぐに決まるわけではありません。当時の条件、今初めて分かったこと、これから変えられることを分けると、過去の比較だけでなく、今の暮らしに必要な判断を考えられます。

選ばなかった道には、見えない部分が残る

転職を決めたのに、前の職場のよい話が気になる。引っ越し後、候補だった別の家を何度も検索する。「もう決めたのだから考えない」と言い聞かせるほど、確認したくなることがあります。選択後に不便が見えると、もう一方なら苦労がなかったように思えるかもしれません。

けれど、今の生活では実際の困難を体験する一方、選ばなかった道の負担は体験していません。比較しているのは、現実の暮らしと、よい点が目立つ想像という場合があります。「もう一方にも欠点があったはず」と自分を説得しきるより、分からない部分があることを残しておけます。

心理学では、過去と違う展開を想像することを「反実仮想」と呼びます。研究上は、次の行動に役立つ場合も、気持ちを動かす場合もあり、すべてを無駄な考えとして扱うものではありません。[1] 問題は考えが浮かぶことだけでなく、何時間も比較して、今必要な生活が後回しになるなどの負担です。

当時の判断を、今の情報だけで採点しない

説明用の例として、通勤時間を短くするために住まいを選んだところ、入居後に夜の騒音が分かった場面を考えます。「気づくべきだった」と責めたくなっても、内見の時間帯にその情報を得られたか、選べる物件や費用にどんな制約があったかは別に確認できます。

結果を知ったあと、それを前から予測できたように感じる傾向は「後知恵バイアス」と研究されています。[2] この概念は、失敗の責任をすべてなくす免罪符ではありません。学ぶ点を考える際に、当時知らなかった情報まで使って自分を責めていないかを確かめる視点です。

この例で学べることは、「自分は何を選んでも失敗する」より、「次に住まいを選ぶなら、可能な範囲で別の時間帯の様子も確かめたい」のように具体的にできます。ただし、全情報を集めることはできず、調べる時間や費用にも限界があります。次回は完全に見抜くという新しい義務を作らなくてよいのです。

いま必要なのは、比較か、調整か、選び直しか

同じ後悔でも、取るべき行動が同じとは限りません。住まいの例なら、騒音について管理側に確認する、睡眠への影響を医療で相談する、契約や転居の条件を専門窓口で確かめるなど、今の問題を扱う選択肢があります。心理相談だけで契約や健康の判断を決めることはできません。

今の問い 整理する方向
新しい情報があり、条件が変わった 今の選択を続ける条件や見直しを検討する
具体的な困りごとがある その問題を調整できる窓口へ相談する
同じ比較を繰り返している 追加で知りたい事実と、確実さを求める気持ちを分ける

後悔があるから必ず選び直すべきでも、すでに選んだから続けるべきでもありません。新しい事実や、負担の大きさ、変更にかかる費用や安全を見て、今の時点の選択を考えます。危険や深刻な不利益がある場合に、「決断を正解にする努力」を理由に我慢を続ける必要はありません。

次に役立つ問いは、一つ残ればよい

「もし別の道なら」と考えたあと、次にすることが具体的になるなら、その考えには役割があったかもしれません。反対に、「自分には判断力がない」という結論に戻るだけなら、振り返りの目的が学びから自己評価へ移っている可能性があります。研究上も、反実仮想が行動をどう支えるかは、その内容や機会によって異なると考えられています。[1]

使える問いは、「次の似た場面では、何を一つ確かめたいか」「今の選択の中で、何を変えられるか」です。何度も調べている内容が同じなら、検索をさらに続けるより、今困っている部分を誰に相談するかを決めるほうが役立つ場合があります。検索を区切れなかった日を、また失敗として数える必要はありません。

取り戻せない選択には、残念さが残ることもあります。それを学びや成長に変えないと相談できないわけではありません。「あの機会が欲しかった」と惜しむ時間と、今日の食事や休みを確保する時間を、別々に持てます。答えが出ない気持ちを誰かに聞いてもらうだけの日もあってよいのです。

相談では「正しかったか」以外の目標を持てる

心理相談には、「決めたあと、夜に比較が止まらない」「人に間違いだと言われるのが怖い」と伝えられます。担当者が過去の唯一の正解を判定するというより、どんな情報を探し、何を確かめたくて、何が生活を圧迫しているのかを一緒に考えます。

周囲からの圧力が強かった、自分には選択肢がほとんどなかった、十分な説明を受けられなかった事情も話せます。選択を自分だけの責任にまとめる必要はありません。制度、契約、仕事、医療などの専門判断が必要な部分は、それぞれの正式な窓口と分けて相談します。

相談相手に「結局どちらが正しかったと思いますか」と何度も尋ねたくなる場合も、その安心がどれほど続くかを話せます。答えをもらってもすぐ別の情報が気になるなら、必要なのはもう一つの判定だけではないのかもしれません。分からなさに耐える練習を一人で厳しく課すのでなく、どんな支えがあれば今日の用事へ戻れるかを一緒に考えます。判断の期限があるときは、期限そのものを隠さず伝えてください。

今持ち帰れるのは、「当時の自分を裁く問い」と「今必要な行動を選ぶ問い」を分けることです。迷いを完全になくすより、何を今決め、何はまだ分からないままにしておくかを選ぶことも、十分に具体的な相談の目標になります。

関連する内容は、キャリアの迷いをカウンセリングで相談できるか、自分らしさや将来が分からないとき、問題解決療法とはでも読めます。

参考・引用文献

  1. Epstude, K., & Roese, N. J. (2008). The functional theory of counterfactual thinking. Personality and Social Psychology Review, 12, 168–192. doi:10.1177/1088868308316091.
  2. Roese, N. J., & Vohs, K. D. (2012). Hindsight Bias. Perspectives on Psychological Science, 7, 411–426. doi:10.1177/1745691612454303.

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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