よい知らせを受けても不安になるとき|喜べない気持ちを責める前に

よい知らせを受けても、不安や寂しさが出ることはあります。喜びが足りないと自分を責めるより、何がうれしく、何が心配なのかを別々に考えてみます。不安があるだけで、本当は望んでいなかったと決める必要はありません。

望んだ変化にも、負担や失うものはある

希望していた仕事が決まった、引っ越し先が見つかった、大切な計画が実現することになった。周囲は喜んでいるのに、自分は翌日からのことを考えて胸が重い。「よいことなのだから悩んではいけない」と感じるほど、誰にも話せなくなるかもしれません。

英国NHSも、前向きで予想していた生活の変化であっても、対応が難しくストレスになることがあると説明しています。[1] 良い知らせは、望みがかなう情報であると同時に、役割、時間、お金、人間関係が変わる情報でもあります。喜びと準備の負担は、別々に存在し得ます。

心理学の研究では、人生の節目などで、うれしさと悲しさを同時に経験することも調べられています。[2] だからといって、複雑な気持ちを持つことが健康の証明になったり、全員が同じように感じたりするわけではありません。一つの気分だけで、望みの本気度を測らなくてよいという視点です。

「何となく不安」を、違う問いへほどく

ここからは説明用の例です。希望していた新しい仕事が決まり、友人から祝福された夜に「自分には務まらない」と怖くなった場面を考えます。その言葉の中には、仕事の能力への不安だけでなく、開始日の予定が不明、生活費が足りるか分からない、今の同僚と離れる寂しさも含まれるかもしれません。

まず、喜んでいる部分を一つ、気がかりを一つ、それぞれ独立した文章にできます。「やりたかった業務に関われるのはうれしい。最初の一か月の働き方が分からないので怖い」のように、うれしさを心配で打ち消さず、心配もうれしさで消さずに並べます。

そのうえで、「確かめれば分かる条件」「誰かと調整する必要がある負担」「すぐ答えの出ない怖さ」を分けます。仕事の例なら、勤務時間や研修の有無は正式な担当者へ確認する内容です。「失敗したら価値がなくなる気がする」という怖さは、条件確認と別に心理相談で話せます。

実際に過大な期待や無理な条件が示されたなら、不安をすべて考えすぎにしなくてかまいません。引き受ける範囲や開始時期の調整、選択の見直しを検討する余地があります。前向きになる努力が、現実の問題に気づくことを妨げないようにします。

祝福への返事と、今の気持ちは別でよい

「おめでとう」と言われたら、同じ温度で喜びを返さなければと感じることがあります。しかし、相手の好意にお礼を伝えることと、自分の心配を隠しきることは同じではありません。「ありがとう。うれしいけれど、これからの準備で少し緊張もしています」と短く返す方法があります。

詳しく話したくない相手には、「ありがとうございます」で終えてもかまいません。「せっかくなのに」と説得されるのがつらければ、「今日は不安の解決策より、少し聞いてもらえると助かる」と、話してほしい方向を添えることもできます。全員に分かってもらうことを、最初の課題にしなくてよいのです。

周囲から祝われる選択でも、本人の意向が十分に尊重されていなかった場合があります。断りにくさや経済的な事情で受け入れたのであれば、その制約も話せます。「社会的によい知らせ」かどうかと、自分にとってどんな選択だったかは、分けて考える必要があります。

変化の前に、普段の生活を全部変えない

新しい役割に備えて勉強し、人に挨拶し、家事を整え、気持ちまで前向きにしようとすると、開始前に休む時間がなくなります。準備をするときは、「始まる前に必要なこと」と「始まってから教わること」を正式な担当者と確かめられます。分からないことを、自分の準備不足として全部埋めなくてかまいません。

説明例なら、初日に必要な持ち物や連絡先を確認できたら、その夜は普段の食事や休みを確保する選択があります。安心できる予定や人とのつながりを、可能な範囲で残しておくこともできます。新しい挑戦をするために、前の暮らしをすべて切り捨てる必要はありません。

ただし、この工夫で不安が消えるとは限りません。仕事や介護、住まいの事情で休みを取りにくい人もいます。その場合は「休めない自分の管理不足」とせず、実際に何を減らせるか、どの支援を使えるかを相談します。気持ちの整理と、負担の再配分を両方考えられます。

喜べなさが続くなら、その影響を相談する

眠れない、食事が取れない、落ち込みや恐怖で予定をこなせないなどの影響があるなら、「本来よいことなのに」と受診や相談を控える必要はありません。心理相談では、喜びを取り戻すことだけを目標にせず、何が怖く、何が過重で、誰の期待を背負っているのかを整理できます。体調の変化は医療にも相談します。

研究[2]が扱ったのは、映画や卒業、寮からの転出などでの喜びと悲しみです。個々のよい知らせへの不安を、同じ仕組みで説明しきれるわけではありません。この記事の見方が合わなければ、「喜びと不安というより、何も感じない」「自分で選んだ感じがない」と、違う言葉から話してかまいません。

新しい予定が近づくほど不安が強まるなら、どの時点から、何を考えると、何ができなくなるかを相談に持ち込めます。「周囲に発表した夜から眠れない」「準備を始めようとすると前の暮らしが恋しくなる」のように、時間の流れが分かると、必要なのが情報、実務の手助け、寂しさを話す時間のどれかを考えやすくなります。正しい感情の割合を決めるための記録ではありません。

相談に持っていける言葉は、「うれしいはずなのに」から、「うれしい点はある。けれど、ここが怖い」へ変えてみることです。どちらか一方を正しい気持ちに決めず、知らせを受けた今の自分に必要な情報と支えを考えられます。

関連する内容は、異動・昇進・転職後のストレス、自分らしさや将来が分からないとき、不安が頭から離れないときでも読めます。

参考・引用文献

  1. NHS. Every Mind Matters: Life changes.
  2. Larsen, J. T., McGraw, A. P., & Cacioppo, J. T. (2001). Can people feel happy and sad at the same time? Journal of Personality and Social Psychology, 81, 684–696. doi:10.1037/0022-3514.81.4.684.

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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本記事は一般的な心理情報の提供を目的とし、判断・支援の代替ではありません。記事で紹介する心理療法・支援法のすべてを当サービスが提供していることを示すものではありません。体調や安全に不安がある場合は、医療の窓口または地域の相談窓口をご利用ください。