流産・死産のあと、周囲に気持ちを話せないとき

流産・死産のあと、周囲に気持ちを話せなくても、一人で日常へ戻りきる必要はありません。身体の回復を医療で確かめながら、誰に何を伝えるか、どんな支えが必要かを選べます。悲しみの強さや表し方を、妊娠の時期や周囲の反応だけで測らなくてよいのです。

知られていない出来事を、自分だけで抱えるとき

妊娠をまだ伝えていなかったため、職場では何もなかったように振る舞う。周囲が次の予定の話をするたび、返事をするだけで疲れる。出来事を話したいのに、詳しく聞かれたり慰められたりするのが怖いということもあるでしょう。

「赤ちゃん」「子ども」「妊娠」「失ったこと」など、どんな言葉が自分に近いかも人によって違います。周囲が使う言葉に合わせて、その関係や気持ちを決める必要はありません。悲しさのほか、現実感がない、怒りがある、ほっとする気持ちが混ざる、何も言えないなど、その時点の体験から話せます。

こども家庭庁は、流産・死産等を経験した方への相談支援の窓口や制度を案内しています。[1] 相談の対象になるために、気持ちを特定の形に整える必要はありません。今後の妊娠を望むかどうかが決まっていなくても、今の出来事について支えを求められます。

身体の相談と、心のつらさは両方扱える

出血や痛み、ほかの身体症状、薬のことなどは、診療を受けた医療機関へ相談してください。受診や連絡について受けた指示を確認し、症状が強い、急に変わったなどの場合は、予定の診察まで待ってよいかも医療へ確かめます。急な重い症状では、通常の心理相談を待たず緊急の医療を優先します。

体が動くようになっても、人に会う気力や仕事への集中が同じように戻るとは限りません。反対に、気持ちを話せても、身体の診察が不要になるわけではありません。「仕事へ戻ってから疲れが強い」「診察の予定を考えると眠れない」と、生活への影響を医療者へ伝えられます。

流産や子宮外妊娠後の本人とパートナーを追った研究では、双方に心理的な負担があり、その現れ方にも違いが見られました。[2] ただし、質問紙の基準は個人の診断そのものではなく、早期の妊娠喪失を扱う海外研究の結果を、死産やすべての家族へそのまま広げることはできません。

伝える相手と、詳しく話す範囲を別々に選ぶ

ここからは説明用の例です。職場の同僚は妊娠を知らず、休み明けに事情を聞かれるのが怖い場面を考えます。必要な配慮を得るために正式な担当者へ伝えることと、同僚へ詳しい経過を説明することは、同じ範囲でなくてかまいません。

「医療に関わる出来事があり、しばらく通院と勤務の相談が必要です。詳しい事情を広く共有することは望んでいません」と伝える案があります。制度利用に必要な書類や共有範囲は、人事などの正式な窓口へ確認します。具体的な制度は状況で異なり、この記事だけで利用条件を判断しないでください。

こども家庭庁は、産後休業や母性健康管理措置の対象となる場合を案内しています。[1] 何を使えるか自分だけで調べ切る必要はありません。医療機関や職場の正式な担当者へ、「今の体調で使える配慮と、必要な手続きを知りたい」と尋ねられます。

友人や親族には、「今は詳しく話すのが難しい」「励ましより、普段の連絡を少し続けてほしい」「妊娠に関する話題は今は控えてほしい」など、してほしいことを選べます。全員に一度で伝えたり、相手の善意に感謝する返事を整えたりする義務はありません。

パートナーと違う反応でも、思いの量は比べられない

一人は話したくて、もう一人は黙っていたい場合があります。仕事に戻ったように見える相手を冷たいと感じたり、泣いている自分だけが取り残されたように感じたりすることもあるでしょう。見える表現だけで、関係を大切にする気持ちの量を決めることはできません。

研究[2]でも、身体で経験した本人とパートナーの反応の違いが示されていますが、性別によって悲しみ方が決まるという意味ではありません。対象のパートナーが男性のみだったなどの制約もあります。実際の二人のことは、「今は話を聞いてほしい」「今日は手続きだけ一緒にしてほしい」と、その日の希望から確かめられます。

相手に同じ気持ちになってもらうことと、自分に必要な支えを得ることは分けられます。二人だけで支えきれなければ、それぞれが相談する選択肢もあります。威圧や暴力がある場合には、共同での話し合いや開示を優先せず、安全な専門機関へ相談してください。

思い出し方や、次の予定に正解を設けない

何かを残したい人も、今は見たくない人もいます。今は周囲の人と会いたくない、呼び名を使ってほしい、使わないでほしいなど、希望が変わることもあるでしょう。記念の品や儀式、写真、供養などを、悲しみを扱うための必須課題にする必要はありません。

「また妊娠すれば」と言われても、今の喪失が置き換わると考える必要はありません。次の妊娠や治療の医学的な見通しは医師と相談し、心理相談では、その話題に触れる怖さや、望むか決めきれない気持ちを扱えます。気持ちの整理を、次の妊娠への準備に限定しなくてよいのです。

笑った日や他のことに集中できた時間があっても、忘れた証拠ではありません。悲しみが戻った日も、やり直しということではありません。周囲の期待する時期に合わせて「もう大丈夫」と表明するより、今必要な配慮を少しずつ変えていけます。

相談では、出来事の詳細を全部語らなくてもよい

相談先を探すなら、診療を受けた医療機関や、こども家庭庁が案内する地域の相談窓口へ確認できます。[1] 対象や内容、当事者同士の場か個別相談か、費用や予約などは、利用先へ確かめます。心理相談では、「まだ経過を話すのは難しい。周囲への返事に困っているところから相談したい」と伝えられます。

自分を傷つけそうな切迫した状態は、通常の予約を待たず緊急の支援を求めてください。そこまででなくても、食事や睡眠、日常を保てないつらさは医療で相談できます。語る準備が整わないままでも、支えにつながることは選べます。

関連する内容は、大切な人との別れや喪失に向き合うとき、高齢期に大切な人と死別したとき、自分を責め続けてしまうときでも読めます。

参考・引用文献

  1. こども家庭庁「流産・死産等を経験された方へ」.
  2. Farren, J., et al. (2021). Differences in post-traumatic stress, anxiety and depression following miscarriage or ectopic pregnancy between women and their partners: multicenter prospective cohort study. Ultrasound in Obstetrics & Gynecology. doi:10.1002/uog.23147.

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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このコラムについて

本記事は一般的な心理情報の提供を目的とし、判断・支援の代替ではありません。記事で紹介する心理療法・支援法のすべてを当サービスが提供していることを示すものではありません。体調や安全に不安がある場合は、医療の窓口または地域の相談窓口をご利用ください。