病気やけがで暮らしが変わり、以前の自分と比べてつらいとき

病気やけがのあと、以前の自分と比べてつらくなっても、回復に向き合う姿勢が足りないという意味ではありません。身体の治療や見通しを医療で確かめながら、変わった暮らしや自分への思いも話せます。今の支えを使うことと、回復への希望を持つことは両立します。

できなくなった動作のほかにも、変わるものがある

以前は考えずにできた家事に時間がかかる。外出する前に、道の段差や帰宅後の疲れを気にする。周囲から「できることもある」と励まされても、自分の体を以前のように信じられないつらさがあるかもしれません。

慢性疾患を経験する人への聞き取りから、病気が日々の前提や自分の人生の理解を揺さぶることを捉えた「生活史の中断」という考え方があります。[1] ただし、すべての人が人生を大きく組み直すとは限らず、もとの研究も特定の疾患の経験を扱ったものです。誰もが同じ段階を通って受け入れる、という理論ではありません。

この視点は、「何ができないか」だけでなく、「以前はどんな自分でいられたか」を話す入口になります。家族の用事を引き受ける人、すぐ動ける同僚、気軽に人を誘う友人など、役割が変わったことへの寂しさもあります。能力の一覧だけでは、その意味まで分からないことがあります。

医学的な変化と、気持ちへの影響を別々に伝える

新しい痛み、症状の急な変化、治療や薬の負担などは、通院先の医療者へ相談してください。長く続く病気や後遺症があっても、今回の変化まで同じものと決めないことが大切です。急な重い症状では、通常の心理相談の予約を待たず、緊急の医療を優先します。

回復の見通しが分からないときは、「今分かっていることと、まだ予測しにくいことを分けて聞きたい」「どんな変化なら早く連絡するか確認したい」と尋ねられます。心理相談から、身体の予後や活動の可否を判定することはできません。

一方、診察で体の状態が安定していると言われても、「外出の予定を入れるのが怖い」「人に会うと以前との違いを意識して疲れる」という負担は残ることがあります。医療の評価と違う結果を証明しようとするのではなく、身体の経過に加えて、暮らしにどんな影響があるかを伝えられます。

以前の役割の「何」を残したいか考える

ここからは説明用の例です。けがのあと、家族の買い物を一人で担当することが難しくなり、「役に立てない」と感じる場面を考えます。大切だったのは、重い荷物を自分で運ぶことなのか、家族の好みを考えることなのか、暮らしの段取りを決めることなのかを分けてみます。

身体的な動作は難しくても、献立を一緒に決める、注文の一部を担当するなど、残したい関わりが別の形で可能な場合があります。ただし、できる役割を必ず探して価値を示さなければならないわけではありません。今は何も担当せず支えを受ける時間も、選択に含まれます。

WHOは、リハビリテーションを身体機能の訓練だけでなく、環境や活動を調整し、本人の目標や希望に応じて日常や役割への参加を支えるものと説明しています。[2] 説明例でも、荷物を運べるようになることだけを目標にせず、どんな暮らしをしたいかを医療やリハビリの担当者へ話せます。

希望を持つことと、今の調整を使うことは両立する

道具を使う、家事を代わってもらう、勤務を相談することが、「もう元に戻らないと認める」行為のように感じる場合があります。しかし、今の負担を減らすことと、今後の回復に何を期待するかは別の問いです。調整がどの期間必要かも、状態に応じて見直せます。

説明例なら、「買い物を代わってもらいたい。ただ、自分で選ぶ部分は残したい」と具体的に伝える方法があります。すべてを代行されるのも、以前と同じ量を求められるのもつらい場合、その間の希望を話せます。手助けの範囲は一度の合意で固定する必要はありません。

仕事については、主治医、産業医・産業保健、人事などの正式な相談窓口で、勤務上の調整や必要な情報共有を確かめます。収入や住まい、制度上の支えは、医療ソーシャルワーカーや自治体等へ相談できるか尋ねます。体調を説明できない自分が悪いとせず、専門職の力を借りて条件を整理できます。

「受け入れる」ことを、支援の合格条件にしない

以前の写真を見たくない日も、思い出を話したい日もあるでしょう。できることへ目を向ける提案が役立つ場合も、今失ったことを聞いてほしい場合もあります。「まだ受容できていないから進まない」と、自分を段階に当てはめなくてかまいません。

周囲へは、「前向きな話をする前に、変わって寂しいことを少し聞いてほしい」「できることを探してくれるより、この用事を頼みたい」と、支えの形を伝える案があります。すべての相手に理解してもらおうとすることが疲れるなら、話す範囲を選べます。

回復した人の体験談と比べてつらくなる場合もあります。病気やけがの部位、経過、使える治療、職場や家計の条件は同じではありません。他人の時期や到達点を、自分の努力や価値の判定基準にしないことが大切です。自分の見通しは、担当医療者と確認します。

心理相談では、自分らしさを一つに決めなくてよい

「前は頼られる側だったので助けを受けるのが苦しい」「今の体で何を望んでよいか分からない」と、心理相談で話せます。本人の経験を、障害や病気を乗り越えた成長の物語へまとめる必要はありません。病気になる前の自分と、今の自分のどちらかを捨てる課題でもありません。

WHOの説明[2]はリハビリの一般的な役割であり、特定の機関ですべての支援を受けられる保証ではありません。どの専門職に何を相談できるか、費用や通院の負担も含めて利用先へ確かめます。心理相談には、医療の代わりではなく、希望や喪失、関係の変化を扱う目的を持てます。

落ち込みや不眠などが生活を圧迫する場合は、医療にもその影響を伝えてください。今日持ち帰れる問いは、「以前と同じようにできるか」だけでなく、「今、大切にしたいことをどんな支えと一緒に残したいか」です。答えがまだなくても、考えるための相談を使えます。

関連する内容は、復職を考えるとき|怖さを整理し、職場と相談する準備、大切な人との別れや喪失に向き合うとき、高齢者が「家族に迷惑をかける」と感じるときでも読めます。

参考・引用文献

  1. Bury, M. (1982). Chronic illness as biographical disruption. Sociology of Health & Illness, 4, 167–182. doi:10.1111/1467-9566.ep11339939.
  2. WHO. (2024). Rehabilitation.

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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本記事は一般的な心理情報の提供を目的とし、判断・支援の代替ではありません。記事で紹介する心理療法・支援法のすべてを当サービスが提供していることを示すものではありません。体調や安全に不安がある場合は、医療の窓口または地域の相談窓口をご利用ください。