コーピング(coping)は、負担が大きいと評価された状況や、それに伴う感情に対応するための認知的・行動的な努力を指す概念です。一つの心理療法名ではなく、問題解決、支援を求めること、感情の調整、距離を取ることなど、多様な対処を扱います。[1]
専門的に重要なのは、「よい対処」を固定して選ぶことより、何に対して、どの条件で、どの時点の結果を目指して対処しているかを明確にすることです。対処の種類、機能、柔軟性、実際の効果を分けて理解します。
ストレスは、出来事だけでも性格だけでも決まらない
LazarusとFolkmanのモデルでは、人と環境の相互作用の中で、状況の意味と利用できる資源が評価される過程を重視します。一次的評価はその出来事が自分にとってどういう意味を持つか、二次的評価は対応できる選択肢や資源が何かに関わります。[1]
「一次」「二次」は、いつも一方向に順番どおり進む固定段階と理解する必要はありません。対処の結果や新しい情報から評価は更新されます。また、評価を重視することは、ストレスが考え方次第で生じるという意味ではありません。現実の危険や生活条件、支援の不足は、それ自体が重要な条件です。
同じ出来事でも、健康状態、役割、経験、資源が違えば負担は異なります。本人が強い負担を感じる理由を探るときに、一般的な「その程度なら大丈夫」という基準を押し付けず、その人の条件に即して理解します。
問題焦点型と情動焦点型を、優劣や二種類の人にしない
問題焦点型は負担を生む状況への働きかけ、情動焦点型は状況に伴う感情への対応という機能を表す伝統的な区分です。[1] 一つの行動が両方の機能を持つことがあります。人に相談することも、情報を得て問題を変えることと、安心や共感を得ることの両方につながりえます。
情動焦点型を「逃げ」、問題焦点型を「正しい対処」と位置づけることはできません。変更できない喪失の中で感情を扱うことや、休養によって考える余地を取り戻すことにも意味があります。一方、状況を変えられるのに対処が感情の一時的な軽減だけに偏ると、困難が残る場合もあります。
Skinnerらは、コーピングの分類と測定の多様さを検討し、よく使われる二分法にも限界があることを論じました。[2] 名称だけで分類をそろえるのでなく、何をどの水準で測定しているかを確認する必要があります。
柔軟性の研究は、対処法の数の多さとは違う
Chengらの2014年のメタ解析は、コーピングの柔軟性と心理的適応の関連を集約しました。全体として正の関連がありましたが、柔軟性を「使える対処の幅」と捉えるか、「状況との適合」や「変化に対応できる認識」と捉えるかによって、関連の大きさは異なりました。[3]
この結果は、対処のリストを増やせば必ず健康になるという介入効果を示すものではありません。適応のよい人ほど柔軟に対処できる可能性や、両者を支える別の資源の影響もあります。相関と、柔軟性を育てる介入の因果的な効果を区別します。
臨床では、役立たなくなった方法を中止・修正できるか、新しい支援を利用できるか、状況によって選び直せるかを検討します。「いつも頑張る」「いつも距離を取る」など、一つの形式の一貫性を適応の基準にしないことが大切です。
評価では、対処と結果を別々に測る
コーピング尺度は、本人がどのような対処を用いているかを把握するためのものです。CarverのBrief COPEは、測定負担を減らしながら複数の対処反応を扱うために開発され、初期の心理測定はハリケーン後の回復に参加した成人から得られています。[4]
尺度の下位尺度を、そのまま普遍的な「適応的・不適応的」の一つの得点にまとめたり、状態の断定や性格のラベルとして使ったりしません。一般的傾向か、特定の出来事への対処か、どの期間を尋ねているかで回答の意味が変わります。言語・文化・対象集団に応じた妥当性も確認します。
有効性を考えるときは、対処が使われたかと、症状、睡眠、仕事、関係、安全などがどう変わったかを分けて把握します。負担が強いから対処を多く使っているという可能性もあるため、対処の頻度と不調の関連を、その対処が不調を生んだ証拠にしません。
個人の工夫と、環境への支援を組み合わせる
相談では、一つの具体的な場面について、負担、本人の評価、行った対処、直後と後の結果、使えた支えを整理します。短期には楽になる方法が長期には負担を増やす場合も、短期には負荷のある行動が長期には生活を支える場合もあり、時間軸を共有して検討します。
ただし、危険から離れる、休む、助けを求める行動を安易に回避と評価しません。暴力、過重労働、ハラスメント、生活資源の不足があれば、本人の対処能力の訓練だけでは対応できないことがあります。制度や組織への働きかけを含む支援が必要です。
強い不調や機能低下が続く場合は、コーピングを増やして様子を見るだけでなく、必要な医療的・心理的評価へつなげます。本人が既に工夫していることを理解し、その方法が働く条件と限界を具体化することが、無理のない支援を組み立てる基盤になります。
参考文献
- Lazarus RS, Folkman S. (1984). Stress, Appraisal, and Coping. Springer Publishing Company.
- Skinner EA, Edge K, Altman J, Sherwood H. (2003). Searching for the structure of coping: A review and critique of category systems for classifying ways of coping. Psychological Bulletin, 129(2), 216–269. doi:10.1037/0033-2909.129.2.216.
- Cheng C, Lau HPB, Chan MPS. (2014). Coping flexibility and psychological adjustment to stressful life changes: A meta-analytic review. Psychological Bulletin, 140(6), 1582–1607. doi:10.1037/a0037913.
- Carver CS. (1997). You want to measure coping but your protocol’s too long: Consider the Brief COPE. International Journal of Behavioral Medicine, 4(1), 92–100. doi:10.1207/s15327558ijbm0401_6.
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