筆記エクスポージャー療法(WET)とは

筆記エクスポージャー療法(Written Exposure Therapy: WET)は、PTSDに対する短期の構造化された心理療法です。専門家による評価と説明の下で、面接内でトラウマ記憶に焦点を当てた筆記を行います。一般的な日記や自由な感情の書き出しと同じではありません。少ない回数と比較的少ない面接外課題が特徴ですが、「誰でも5回で十分に改善する」という意味ではありません。[1][2]

筆記という形式と心理療法モデルを区別する

WETでは、PTSDに関する説明、介入の理由、構造化された筆記、反応の確認を含むモデルとして心理療法を行います。研究されたのは、このような条件を持つ介入パッケージであり、「つらいことを書けばよい」という助言全般ではありません。筆記の内容や焦点は、訓練を受けたセラピストが支援計画の中で扱います。[1]

語る量が少なくても、記憶へ注意を向ける作業である点は変わりません。対面で細部を長く話すことへの抵抗があっても、筆記なら負担がないとは限りません。読み書き、言語、集中力、身体状態、面接後の生活条件も評価し、形式を選びます。

本稿は、家庭で記憶の詳細を書き続けることを勧める手順書ではありません。相談前に詳しい記述を用意する必要もありません。まず現在の困難と支援への希望を伝え、必要な評価と説明を受けることができます。

CPTとの非劣性試験

Sloanらの2018年の無作為化非劣性試験では、PTSDの成人126人を、5回のWETと12回のCPTへ割り付けました。盲検評価者によるCAPS-5を用い、初回から36週まで複数の時点で評価しています。あらかじめ設定した10点の許容幅に照らして、WETの非劣性が支持されました。[1]

非劣性とは、定めた主要転帰と期間において、群間差の信頼区間などが事前に定めた許容幅を超えないことを基準に、その幅を超えて劣らないことが支持されたという結論です。両介入が完全に同等、どの人にも同じ結果、あらゆる転帰で差がないと証明したわけではありません。許容幅の臨床的な意味、対照となる介入の実施、解析方法も合わせて読む必要があります。

この試験では、CPTは体験の記述を含む形式でした。比較する療法名が同じでも、形式や面接外の取り組みは異なります。WETの少ない回数を、他の介入の必要性がないという結論へ拡張せず、選択肢が増えたと理解する方が適切です。

PEとの比較から分かること

2023年の試験は、3か所の退役軍人医療機関で、PTSDのある研究協力者178人を対象に、WETとPEを比較しました。この研究ではWETは5〜7回、PEは8〜15回で、主要評価は初回から20週のCAPS-5の変化でした。非劣性の許容幅は10点とされ、WETの非劣性が支持され、脱落もWETの方が少ない結果でした。[2]

回数が少ないことは、時間、移動、生活との両立という点で意味があります。ただし、脱落が少ないという結果だけから「体験の苦痛が少ないため」と因果的に説明することはできません。面接回数や介入期間、面接間課題の違いもあり、完了のしやすさには複数の要因が関わります。

また、研究には高い自殺リスク、活動性の精神病、不安定な双極症、重い認知障害などの除外条件がありました。この範囲外の人へ同じ効果と安全性を約束することはできません。除外基準を、その人に介入が不要・不可能という意味へ読み替えることも適切ではありません。

短期介入の利点と残る問い

短い介入は、支援を利用する機会や専門的資源の活用の幅を広げる可能性があります。一方、PTSD症状の平均的改善と、個々のクライエントの生活、併存症、再発、長い経過は別の評価です。主要な症状尺度が改善しても、関係上の困難や生活の再建に追加の支援が必要な場合があります。

「短いほど優れている」「時間をかけるほど丁寧」という評価はいずれも一律には成り立ちません。どの内容をどの程度の量で行い、何が変わったかが重要です。必要な評価や説明を省いて短くすることと、検証された短期モデルを忠実に提供することは違います。

今後の問いには、どの条件の人が利益を得やすいか、異なる言語や実施環境での再現性、症状以外の転帰、介入が合わない人への次の選択などがあります。非劣性試験の結果を、全ての臨床的な問いが解決したと解釈しないことが大切です。

実施前と経過中に確認すること

PTSDの評価、現在の安全、他の症状、読み書きや認知の負担、支援への希望を確認します。本人が筆記することを望まない場合には、その理由を聞き、他の有効な選択肢を含めて検討します。文章を上手に書く能力や、体験を最初から整然と説明できることを、心理的支援を受ける資格にしません。

経過中は、筆記を完了したかに加えて、悪夢、回避、警戒、睡眠、生活の機能、面接後の反応を把握します。一時的な不快感と持続的な悪化を区別し、負担が強いときに誰へ連絡し、どう計画を見直すかを共有します。予定された回数の終了だけで、全ての困難が解決したと判断しません。

WETを希望する場合は、PTSDへの専門的支援を扱い、WETの訓練・相談体制を持つ機関へ実施内容を確認してください。ALVARAがWETを必ず提供するという案内ではありません。PTSDの心理療法の比較も、支援方法の選択の整理に利用できます。

参考文献

  1. Sloan DM, Marx BP, Lee DJ, Resick PA. (2018). A Brief Exposure-Based Treatment vs Cognitive Processing Therapy for Posttraumatic Stress Disorder: A Randomized Noninferiority Clinical Trial. JAMA Psychiatry, 75(3), 233–239. 論文・書誌情報(DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2017.4249)
  2. Sloan DM, Marx BP, Acierno R, Messina M, Muzzy W, Gallagher MW. (2023). Written Exposure Therapy vs Prolonged Exposure Therapy in the Treatment of Posttraumatic Stress Disorder: A Randomized Clinical Trial. JAMA Psychiatry, 80(11), 1093–1100. 論文・書誌情報(DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2023.2810)

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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