PTSDの心理療法を選ぶとき

PTSDの心理療法を選ぶとき

PTSDの心理療法を選ぶときは、平均的な有効性だけでなく、介入が何を扱い、どのような作業と負担があり、本人の希望と生活に合うかを合わせて検討します。成人PTSDでは、トラウマ焦点認知行動療法やEMDRを支持する研究が蓄積していますが、全ての人に最適な一つの療法が決まっているわけではありません。[1]

支援方法を選ぶ前に評価すること

過去につらい体験があることと、PTSDの分類基準に該当することは同じではありません。症状の組合せ、経過、生活機能、現在の安全、解離、気分症状、物質使用、身体状態、これまでの介入への反応を確認します。困難が複数ある場合には、何を優先し、何を並行して支えるかを共有します。

研究の対象条件にも注意が必要です。Lewisらの2020年のレビューでは、多くの試験が、物質依存、精神病症状、重いうつ症状などの併存症を持つ人を除外していました。効果の平均値が、その範囲外の人へそのまま当てはまるとは限りません。一方、試験で除外されたことは、永久に介入を受けられないという意味でもありません。[1]

現在も暴力や安全上の危険がある場合、まず保護と必要な医療を含む支援体制を検討します。安全への支援とトラウマに焦点を当てる心理療法を単純な二択にせず、対象と状況に応じて、開始時期や並行する支援を決めます。

中心となる作業と形式を比べる

成人PTSDに用いられる主な心理療法の焦点
療法 中心に置く作業 選択前に確認する点
CPT 体験に関連する自責や硬直した意味づけの検討 認知中心か記述を含む形式か、書面や面接間の作業
PE 記憶と、現在は安全な関連場面への回避を扱う 記憶を語る作業、面接外の練習、生活との両立
EMDR 記憶・認知・感情・身体反応に注意を向け、眼球運動等を含む手続きを用いる 評価と準備、扱う記憶、面接後の反応と経過評価
WET 面接内の構造化された筆記で記憶を扱う 読み書きの負担、少ない回数のモデルの内容、終了後の支え

この表は理解のための概要で、各療法を一成分だけに還元するものではありません。具体的な提供形式は担当者へ確認します。どの方法も、本人の同意、適応評価、協働関係、負担のモニタリングが必要です。[1][2][3][4]

比較研究は順位表として読まない

米国退役軍人916人を対象とする2022年のCPTとPEの直接比較では、双方でPTSD症状が改善しました。主要転帰ではPEが統計的に優位でしたが、その群間差は、研究で事前に定義した臨床的に重要な差を下回り、脱落はPEで多い結果でした。小さな平均差だけで全ての人にPEを優先する結論にはなりません。[2]

EMDRと他の心理療法を比較した2024年の個人データ解析では、主要な転帰に有意な群間差は検出されませんでした。ただし、有意差がないことは、完全な同等性の証明ではありません。[3]

WETとPEの2023年の試験は、通常の優越性試験ではなく、事前に定めた許容幅に照らす非劣性試験です。研究された対象と期間での非劣性を、「同じ改善率」「全ての人に短い介入で十分」と読み替えないことが必要です。[4]

同じ介入でも、比較群、分類基準、実施施設、評価尺度、追跡期間によって効果量は変わります。別々の研究から大きな数字だけを取り出して順位を作るより、直接比較の条件と不確実性を説明する方が選択に役立ちます。

本人の希望を研究と結びつける

Zoellnerらの2019年の選好試験は、PTSD成人200人で、標準的な説明後に支援方法を選ぶ条件と選ばない条件を設け、PEとセルトラリンを比較しました。希望する介入を受けた人では、介入への取り組みなどの転帰が良好でした。心理療法同士の優劣を示す試験ではありませんが、希望を聞くことが介入の外側の付加的な配慮にとどまらないことを示す研究です。[5]

希望を尋ねる際には、「何となく好きな名前」を選ぶだけでなく、扱う内容、負担、期待できる利益、限界を理解できる説明が必要です。「詳しく話すのは抵抗がある」「書く作業は負担」「面接間の練習時間を確保できる」など、具体的な条件を共有します。

希望と提供可能な介入が一致しないときには、別の機関への紹介、形式の変更、待機中の支援も検討します。選択肢がない状態で形式的に同意を求めることと、情報を共有して選ぶことは異なります。

訓練・実施の質・経過評価

療法名だけで質は決まりません。PTSDと併存症を評価できるか、該当モデルの訓練と指導を受けているか、介入の理由と予定される作業を説明できるかを確認します。体験を語ること自体が心理療法とされ、目標や評価が共有されない場合には、実施内容を確認する必要があります。

介入開始時に、症状だけでなく、睡眠、仕事や学業、対人関係などの生活目標を共有します。経過中は、変化した点と残る困難、面接後の反応、生活上の負担、継続への希望を確認します。体験を詳しく語れたことと、回復したことは同じではありません。

改善が乏しい場合には、状態像や維持要因、実施内容、併存する問題、本人の希望を見直します。初めに選んだ療法を、何があっても最後まで続ける約束と考える必要はありません。ただし、変更の理由と次の計画は、担当者と具体的に共有します。

子どもの介入とサービス案内を分ける

この成人向けの比較を、そのまま子どもへ適用することはできません。子ども・青年と養育者へのTF-CBTや、幼い子どもと養育者の関係を扱うCPPなどは、対象と介入の構造が異なります。子ども本人の支援は、発達と状態を評価する専門機関へ相談してください。

本稿は各療法の学術的な概要であり、ALVARAが全ての療法を提供するという意味ではありません。実際の相談先では、対象、実施モデル、担当者の訓練、費用と通院条件、必要な医療との連携を確認できます。

参考文献

  1. Lewis C, Roberts NP, Andrew M, Starling E, Bisson JI. (2020). Psychological therapies for post-traumatic stress disorder in adults: systematic review and meta-analysis. European Journal of Psychotraumatology, 11(1), 1729633. 論文・書誌情報(DOI: 10.1080/20008198.2020.1729633)
  2. Schnurr PP, Chard KM, Ruzek JI, et al. (2022). Comparison of Prolonged Exposure vs Cognitive Processing Therapy for Treatment of Posttraumatic Stress Disorder Among US Veterans: A Randomized Clinical Trial. JAMA Network Open, 5(1), e2136921. 論文・書誌情報(DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2021.36921)
  3. Wright SL, Karyotaki E, Cuijpers P, et al. (2024). EMDR v. other psychological therapies for PTSD: a systematic review and individual participant data meta-analysis. Psychological Medicine, 54(8), 1580–1588. 論文・書誌情報(DOI: 10.1017/S0033291723003446)
  4. Sloan DM, Marx BP, Acierno R, Messina M, Muzzy W, Gallagher MW. (2023). Written Exposure Therapy vs Prolonged Exposure Therapy in the Treatment of Posttraumatic Stress Disorder: A Randomized Clinical Trial. JAMA Psychiatry, 80(11), 1093–1100. 論文・書誌情報(DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2023.2810)
  5. Zoellner LA, Roy-Byrne PP, Mavissakalian M, Feeny NC. (2019). Doubly Randomized Preference Trial of Prolonged Exposure Versus Sertraline for Treatment of PTSD. American Journal of Psychiatry, 176(4), 287–296. 論文・書誌情報(DOI: 10.1176/appi.ajp.2018.17090995)

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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