アサーション・トレーニングは、自分の必要、意見、限界を表現しながら、相手の権利も尊重する対人行動を学ぶ介入です。「強く言えばよい」「いつも自己主張すべき」という訓練ではありません。専門的には、技能の不足、不安による行動の抑制、自己主張を禁じる信念、関係や環境の制約を区別し、必要な介入を組み立てます。[1]
自己主張を性格でなく行動として捉える
同じ人でも、友人には依頼できるのに上司には断れない、仕事では説明できるのに家族には感情を伝えにくい、といった違いがあります。したがって「非主張的な性格」を一つの原因とするより、誰に対して、何を、どの条件で伝えにくいかを評価します。受け身・攻撃・適切な自己主張という区別は、人物を分類するラベルでなく、具体的な行動の機能を検討する道具です。[1]
自分の希望を言えることと、その希望が通ることも異なります。相手には断る自由があり、双方の希望が一致しない場合には交渉や別の対応が必要です。「相手を納得させたか」だけを成功指標にすると、本人が守るべき境界や、安全に会話を終える選択が見落とされます。
技能不足・不安・信念を区別する
必要な言葉を思いつけない場合には、具体的な表現の学習、モデルの観察、ロールプレイとフィードバックが役立つ候補になります。言葉は知っているが強い緊張で使えない場合には、不安の評価、段階的な行動練習、予測の検討が必要になるかもしれません。「断るのは利己的だ」という信念が障壁なら、技能を繰り返すだけでは困難が残ります。[1]
説明用の例として、追加の仕事を頼まれた場面を考えます。「無理です」と言えるかだけでなく、現在の仕事量を伝える、優先順位を質問する、返答を保留するという選択もあります。支援者は理想の文句を一つ教えるのでなく、本人の目的と場面に合う選択肢を作ります。これは実際の相談事例ではありません。
言語内容だけでなく、声量、速度、視線、相手の話を聞く間の取り方も練習の対象です。ただし、視線や直接的な言い方を一律の正解とすると、文化、障害特性、関係性による違いを欠陥として扱ってしまいます。本人が選んだ目的に対して、使いやすく、持続できる行動かを検討します。
エビデンスの蓄積と近年の試験
Speedらの2018年のレビューは、行動療法の中で発展した自己主張訓練の歴史と臨床的意義を整理しています。一方で、独立した介入としての近年の研究が減少したことも指摘しました。古典的な研究があるという事実だけで、あらゆる対人問題や精神疾患への第一選択と結論づけることはできません。[1]
Hagbergらの2023年の無作為化比較試験では、成人210人を、8週間のインターネットによる認知行動療法のガイド付き群、ガイドなし群、待機群へ割り付けました。主要転帰は自己評価の自己主張で、両介入群では待機群より適応的自己主張などが改善し、社会不安にも改善がみられました。一方、全般不安への効果は検出されていません。[2]
この試験は「自己主張を介入の標的にできる」という知見ですが、個別面接や日本語の集団講座すべての有効性を直接示すものではありません。研究協力者の自己選択、自己報告尺度、待機比較という条件があります。1年後の評価は改善の維持を考える情報になりますが、介入直後と同じ、介入を受けない対照条件との比較が維持されたかを確かめず、長期の特異的効果と呼ぶことは避けます。
介入パッケージの効果と成分の効果
アサーションの練習は、認知行動療法や対人技能を扱う別の心理療法にも組み込まれます。しかし、複数成分を含む介入が有効でも、自己主張の練習だけで同じ結果が出るとは限りません。逆に、自己主張尺度の改善が先に生じたとしても、それだけで不安や抑うつの改善を生む機序が証明されたわけではありません。[1][2]
研究を実践へ移す際には、介入が何を含み、何と比較され、どの転帰を測ったかを確認します。対人不安が主であれば状態像や回避の程度を、職場での負担が主であれば業務配分や権力関係も評価します。「話し方を変えれば苦痛が解決する」という説明は、環境の問題を個人の技能へ還元しかねません。
臨床での目標設定と評価
評価は、練習中に言えたか、日常場面で選んで使えたか、伝えた後の生活にどう影響したかという段階に分けられます。主張の回数だけでなく、必要な境界を守れたか、攻撃的なやりとりが減ったか、本人が望む関係を保てたかも検討します。評価尺度は経過把握の補助であり、得点だけで関係の質を決めません。
例えば、以前は頼みを全て受けて疲れていた人が、返事を保留して予定を確認できるようになったなら、それも具体的な変化です。その後に断るか引き受けるかは状況次第です。面接では成功例だけを求めず、使えなかった条件や予想外の相手の反応を検討して、行動の選択肢を増やします。
支援者には、本人にとっての「主張する価値」と「主張しない合理性」の両方を理解する姿勢が必要です。強い不安がある場合でも、本人の同意なく難しい対人場面へ押し出すことは、共同で計画した行動練習とは異なります。
安全と権力関係を優先する
暴力、脅迫、支配、報復の危険がある関係では、直接的な自己主張が安全を高めるとは限りません。その場合には距離の取り方、第三者や専門機関の支援、連絡方法などを先に検討します。これはアサーションを諦めることではなく、その場で主張する以外の選択を確保することです。
相談を始めるときは、何を伝えたいかだけでなく、何が起きるのを恐れているか、実際にどのような反応があったかを共有します。安全な関係での技能練習と、危険な関係での保護や環境調整は、支援の目的が異なります。介入の価値は「誰にでも堂々と言える人」になることではなく、本人が状況を見て選べる範囲を広げることにあります。
参考文献
- Speed BC, Goldstein BL, Goldfried MR. (2018). Assertiveness Training: A Forgotten Evidence-Based Treatment. Clinical Psychology: Science and Practice, 25(1), e12216. 論文・書誌情報(DOI: 10.1111/cpsp.12216)
- Hagberg T, Manhem P, Oscarsson M, Michel F, Andersson G, Carlbring P. (2023). Efficacy of transdiagnostic cognitive-behavioral therapy for assertiveness: A randomized controlled trial. Internet Interventions, 32, 100629. 論文・書誌情報(DOI: 10.1016/j.invent.2023.100629)
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