精神力動的心理療法(psychodynamic psychotherapy)は、十分に自覚されていない感情や葛藤、身を守る働き、繰り返す対人関係のパターンを、現在の生活と面接関係の中で理解する心理療法の総称です。精神分析の概念と方法に由来しますが、頻度や期間、焦点の異なる複数の実施形式が含まれます。[1]
過去の原因を言い当てる方法でも、すべての発言に隠れた意味を当てはめる方法でもありません。臨床上の理解の枠組み、特定形式の効果、理論や解釈の妥当性を分けて検討します。
感情、防衛、反復をどう理解するか
精神力動的な実践は、言葉になった説明だけでなく、話しにくい感情、矛盾する願い、苦痛に接近しないための働き、関係の中の反復などに注目します。[1] 「分かっているのに変えられない」という体験も、知的な理解と感情的な経験、行動の変化を分けて考える手がかりになります。
防衛は本人を欺く悪い癖という意味ではなく、苦痛や葛藤に対処する働きとして理解できます。その働きが過去や現在の状況で何を守り、何を難しくしているかを検討します。セラピストの解釈に同意しないことを、直ちに抵抗の証拠とすることは避けます。
発達や過去を扱う際も、現在の問題とどう結びつくかを共有します。過去の出来事を一つ見つけて全てを説明するのでなく、いくつかの理解が可能であることを保ちます。推測やイメージは、過去の事実の確認とは区別して扱います。
面接関係も検討の対象になる
セラピストへの期待、不信、気遣い、怒りなどは、関係を理解する材料になりえます。過去や他の関係と重なる面を転移として考えることがありますが、セラピストの実際の発言や対応が本人に与えた影響も検討します。[1]
本人が「責められた」と感じた場合、それを過去の投影だけで説明すると、現実の行き違いが見えなくなります。セラピスト自身の応答や枠組みを振り返り、本人が異議を述べられる状態を保つことが必要です。
解釈することだけが介入ではありません。体験を整理し、感情を言語化し、現実の支えを検討する支持的な働きかけもあります。どこまで探索を進めるかは、本人の状態、目標、負荷、関係の安定に応じて調整します。
短期精神力動療法のうつ病研究
Driessenらの2015年のメタ解析は、うつ病に対する短期精神力動的心理療法(STPP)について54研究、うち33件の無作為化比較試験を含む3,946人のデータを扱いました。介入後の対照比較はSTPPを支持し、個人形式と他の心理療法との比較では明確な差は示されませんでした。[2]
ここで、介入前から介入後への大きな変化と、対照群に比べた変化は異なる指標です。前後の変化には自然経過、併用される介入、測定の影響も含まれうるため、介入固有の効果と同一視できません。
また、STPPの証拠を、頻回の長期精神分析や、あらゆる生活上の悩みに同じまま適用することはできません。焦点、介入量、対象、対照条件と、介入終了後の追跡時点を確認して読みます。維持や追加改善が見られても、別の療法より長期的に必ず優れるという結論は別に検証が必要です。
新しいレビューを、古典理論全体の証明にしない
Leichsenringらの2023年のアンブレラレビューは、成人の複数の精神健康領域について、メタ解析の質、臨床的な変化、機能、追跡などの基準から精神力動療法の証拠を評価しました。著者らは対象領域で支持を報告しつつ、特定の比較にバイアスや不精確性などの限界があることも述べています。[3]
こうした研究は、精神力動療法に実証研究がないという理解を修正する材料です。一方、どの精神分析理論も正しい、ある解釈が本人の無意識の真実である、と証明するものではありません。臨床パッケージの効果と、その背後の説明体系の検証を分けます。
レビューのレビューには、同じ一次研究を繰り返し数える可能性があります。研究者の理論的立場、比較療法の実施の質、欠測や有害な変化の評価なども確認します。療法名だけの優劣ではなく、「どの人に、どの形式を、何と比べたか」という問いが必要です。
自己理解と、生活の変化を共に評価する
本人が自分のパターンを説明できるようになっても、苦痛や生活上の支障が続く場合があります。理解が深まったこと、感情を扱えること、関係や生活で選択が変わることを分けて確認します。変化が乏しいときに、本人の抵抗が強いという説明だけで面接を続けないことが大切です。
開始時には目標、頻度、期間の見通し、費用、守秘、連絡、終結や見直しの時点を共有します。長期のセラピーを選ぶ場合も、期間の長さそのものを深さの証拠にせず、得られたものと負担を定期的に振り返ります。
切迫した危機、精神病症状や躁状態、強い身体症状等がある場合は、必要な医療と安全支援を組み合わせます。現実の暴力や搾取を心的葛藤だけに還元せず、環境への支援も検討します。訓練と指導を受けた実践、本人の経験を検証する対話、転帰の確認が、臨床モデルを適切に用いる条件になります。
参考文献
- Shedler J. (2010). The efficacy of psychodynamic psychotherapy. American Psychologist, 65(2), 98–109. doi:10.1037/a0018378.
- Driessen E, Hegelmaier LM, Abbass AA, et al. (2015). The efficacy of short-term psychodynamic psychotherapy for depression: A meta-analysis update. Clinical Psychology Review, 42, 1–15. doi:10.1016/j.cpr.2015.07.004.
- Leichsenring F, Abbass A, Heim N, et al. (2023). The status of psychodynamic psychotherapy as an empirically supported treatment for common mental disorders – An umbrella review based on updated criteria. World Psychiatry, 22(2), 286–304. doi:10.1002/wps.21104.
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