メンタライゼーションに基づく心理療法(MBT)とは

メンタライゼーションに基づく心理療法(mentalization-based treatment:MBT)は、自分や他者の行動を、感情、考え、願い、意図などの心的状態と結びつけて理解する働きを支える心理療法です。境界性パーソナリティ障害(BPD)への構造化された心理的支援から発展しました。[1]

相手の本心を正確に読む訓練ではありません。自分の理解にも限界があることを保ちながら、強い感情や関係の緊張の中でも理解し直せることを目指します。理論的なモデルと、介入パッケージの研究結果を分けて捉えます。

メンタライジングは、量より柔軟な働きが重要

人の行動を心的状態から理解する働きには、意識して考える面と自動的な面、自分と他者、感情と認知、表情や行動などの外的情報と内的体験を手がかりにする面があります。どれか一方を増やすだけでなく、状況に応じて行き来できることが重視されます。[1]

理解がうまく働かないときは、相手の行動を気持ちから考えにくくなる場合も、根拠の少ない複雑な推測を確信する場合もあります。後者は考える量が多いから良好な理解だ、とは言えません。事実、本人の感情、相手についての推測を分けることが助けになります。

強い感情や愛着に関わる脅威の中で、その働きが変化するというのがMBTの臨床モデルです。これは、そのような状態がある人すべてがBPDであるという意味ではなく、医学的な判断と個別の成り立ちを分けて評価します。

「分からない姿勢」は、判断を放棄することではない

MBTのセラピストは、自分の推測を事実にせず、好奇心を持って本人の経験を尋ねます。何が起き、何を感じ、そのとき相手がどう見えたかを具体化し、違う見方が可能かを一緒に検討します。長い解釈を与えるより、今の理解が途切れたところへ戻る場合があります。[1]

たとえば返事がない場面で、「無視された」という確信と、その時の恐怖や怒り、実際に分かっている出来事を区別します。別の可能性を挙げることは、本人の気持ちを否定したり、不当な行為を正当化したりするためではありません。

セラピスト自身が誤解した可能性も扱います。本人が怒りや失望を表した際に、理解の能力の低さとして片づけず、セラピストの言葉と関係の中で何が起きたかを確認します。「分からない姿勢」は、危険や現実の問題への専門的な判断まで保留することではありません。

支援の構造と、危機への支援を含めて理解する

研究されてきたMBTには、個人面接と集団、心理教育、支援計画や危機対応を組み合わせた外来・デイホスピタルの形式があります。[1][2] 一回の面接で相手の気持ちを尋ねることと、MBTの介入プログラムを提供することは同じではありません。

感情が強まりすぎて考えにくい場面では、複雑な心理分析を深めるより、覚醒や負荷を調整し、今の体験を共有できるところへ戻ることを重視します。面接中のやり取りも、本人の同意と負荷に配慮しながら検討の対象になります。

実施を考える際は、どの形式が提供されるか、個人と集団の関係、期間、医療との連携、危機時の体制、担当者の訓練と指導を確認します。理論への賛同だけでは、研究で検証された介入構成が再現されているとは言えません。

比較試験とメタ解析は、結論の範囲をそろえる

BatemanとFonagyの2009年の試験は、BPDの基準を満たし、外来で支援を受ける研究協力者134人について、18か月のMBTと構造化臨床マネジメント(SCM)を比較しました。両群で改善があり、MBT群で自殺企図や入院などに、より大きな改善が示されました。対照は無支援ではなく、構造化された支援でした。[2]

一方、成人BPDに焦点を絞った2022年のレビューは、MBTの自傷・自殺関連の転帰を支持する結果を整理しつつ、証拠の確実性は低いと評価しています。[3] 一つの開発者試験の好結果と、独立した研究を含む統合的評価は区別して読む必要があります。

MBTがBPDのあらゆる症状で他療法に優れる、他者理解が苦手な人全員に同じ効果がある、という結論にはなりません。自傷、入院、症状、対人機能などの評価項目と、対象、実施期間、対照群、追跡をそろえて判断します。

理解の変化と、安全・生活の変化を共に追う

介入によってメンタライジングに関する尺度が改善しても、それが転帰改善の唯一の原因と確定したわけではありません。構造化された継続支援、関係の安定、危機対応なども関わりえます。機序の仮説と、介入パッケージの効果を混同しません。

臨床では、感情の強いときに理解を修正できるかに加え、自傷や衝動的な行動、関係、就労・学業、生活の安定、本人の負担を確認します。面接内で別の見方ができることと、日常の強い負荷の中でそれを使えることは別に評価します。

相手の気持ちが完全には分からなくても、暴力や侮辱など実際の行為の影響は扱えます。危険を本人の受け取り方だけの問題にせず、安全と必要な距離を優先します。切迫した自殺リスクなどがあれば、医療と危機対応を含む支援体制の中で心理的支援を検討します。

参考文献

  1. Bateman A, Fonagy P. (2013). Mentalization-based treatment. Psychoanalytic Inquiry, 33(6), 595–613. doi:10.1080/07351690.2013.835170.
  2. Bateman A, Fonagy P. (2009). Randomized controlled trial of outpatient mentalization-based treatment versus structured clinical management for borderline personality disorder. American Journal of Psychiatry, 166(12), 1355–1364. doi:10.1176/appi.ajp.2009.09040539.
  3. Stoffers-Winterling JM, Storebø OJ, Kongerslev MT, et al. (2022). Psychotherapies for borderline personality disorder: A focused systematic review and meta-analysis. British Journal of Psychiatry, 221(3), 538–552. doi:10.1192/bjp.2021.204.

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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