フォーカシング(focusing)は、状況全体について身体に感じられる、まだ十分に言葉にならない意味に注意を向け、言葉やイメージと照合していく体験的な方法です。Eugene T. Gendlinが心理療法の体験過程の研究と理論から発展させました。[1][2]
身体感覚から病気の原因や他者の本心を読み取る方法ではありません。また、フォーカシングの理論、フォーカシング志向心理療法、体験過程と介入の成果の関連研究は、区別して理解する必要があります。
フェルトセンスは、単なる身体症状や感情名ではない
フェルトセンスは、たとえばある関係や問題についての、状況全体を含む曖昧な身体的な感じとして説明されます。既に「怒り」「悲しみ」と明確になっている感情や、局所的な筋緊張と重なることはあっても、それだけと同一ではありません。[1][2]
重要なのは、その感じにセラピストが意味を付けることでなく、本人が表現を試し、体験に合うかを確かめる往復です。表現が合わないことも、新しい理解につながる情報になります。「胸が重いなら悲しみだ」など、身体部位と意味を固定して解釈しません。
意味が少し動き、身体的な変化を伴うことをフェルトシフトと呼ぶ場合があります。ただし、変化の感覚は、その理解が外的な事実として正しい証拠ではありません。本人にとっての体験の変化と、出来事の客観的な確認を分けて考えます。
手順を再現することより、体験に応じた対話を重視する
方法の説明では、内側に余地を作る、曖昧な感じに触れる、表現を見いだす、照合する、といった働きが整理されます。ただし、体験を決められた順番に押し込むことが目的ではありません。本人が今どこまで触れられるか、どこでは距離が必要かに応じて進めます。
Gendlinの1969年の原著も、フォーカシングを心理療法の中の下位過程と位置づけ、それだけで心理療法に十分とはしていません。[1] 後の学術書は、体験的な理解を心理療法の対話へつなげる方法として体系化しています。[3]
セラピストは、感じ方を訂正したり、深い感情が出るまで粘ったりするのでなく、本人が体験との距離を調整できるよう支えます。沈黙や内面への注意が合わない場合もあり、その不都合を安全に伝えられることが大切です。
体験過程の研究と、フォーカシングの固有効果
Pascual-LeoneとYeryomenkoのメタ解析は、10研究、406人について、面接内の体験の深さを測るexperiencing scale(EXP)と介入の成果の関連を検討しました。自己報告の症状変化とは小~中程度の関連があり、転帰の測定形式によって結果が異なりました。[4]
これはフォーカシングを受ける群と受けない群を無作為に比較した研究ではありません。体験過程が深いことは、フォーカシングという特定介入の固有効果や、全員に必須の改善機序を証明しません。本人のもともとの特性、面接関係、改善に伴う話し方の変化など、別の説明も考慮します。
したがって、「身体に感じられれば必ず治る」「話の内容より深さがすべて」という紹介は、証拠を越えます。臨床過程を観察する意義と、特定疾患への有効性がどの比較試験で確かめられているかは、異なる問いです。
内的な意味と、記憶・身体・外界の事実を分ける
強い実感が生じても、それだけで、覚えていなかった被害や特定の過去の出来事が実在したと結論できません。本人の体験を尊重することと、セラピストが歴史的な事実を認定することを区別します。質問や解釈によって、ある説明へ導いていないかに注意が必要です。
身体の痛み、息苦しさ、めまいなどを、心理的な意味だけで説明しません。新しい症状や強い不調は、必要な医学的評価を受ける対象です。内面への注意を深めることが、身体疾患の診断の代わりになることはありません。
同様に、身体で「相手は怒っている」と強く感じたことは、自分の不安や関係について考える手がかりにはなっても、相手の心を確認したことにはなりません。事実確認、相手との対話、安全上の判断を、本人の実感と合わせて検討します。
臨床での導入と、安全な距離の調整
内側への注意によって、圧倒される感情、再体験、現実感の低下などが生じる場合は、進めることを優先しません。本人の同意と負荷を確認し、今の環境に注意を戻す、会話中心に切り替える、中断して専門的評価を行うなど、必要な調整を考えます。
何も感じられないことや、言葉が見つからないことを失敗にしません。その人にとって内面を感じる条件が整っているか、今は別の支援が必要かを検討します。感じ取る能力の採点が増えると、自己批判やセラピストへの迎合を強める場合があります。
方法を学ぶ講座や対等なパートナー練習と、精神健康上の問題を扱う専門的な心理療法は、役割と責任が異なります。支援を選ぶ際は、対象とする困難への専門性、評価、危機への対応、他の支援との連携を確認します。体験への丁寧な接近は、根拠と限界を明確にする姿勢と両立します。
参考文献
- Gendlin ET. (1969). Focusing. Psychotherapy: Theory, Research & Practice, 6(1), 4–15. doi:10.1037/h0088716.
- Gendlin ET. (1991). On emotion in therapy. In JD Safran & LS Greenberg (Eds.), Emotion, Psychotherapy, and Change (pp. 255–279). Guilford Press.
- Gendlin ET. (1996). Focusing-Oriented Psychotherapy: A Manual of the Experiential Method. Guilford Press. ISBN 9780898624793.
- Pascual-Leone A, Yeryomenko N. (2017). The client “experiencing” scale as a predictor of treatment outcomes: A meta-analysis on psychotherapy process. Psychotherapy Research, 27(6), 653–665. doi:10.1080/10503307.2016.1152409.
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このコラムについて
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