自分の気持ちが分からなくても、相談はできます。「悲しい」「怒っている」と正しく言い当てる前に、起きたこと、浮かんだ考え、体の様子、どうしてほしいかを別々に話す方法があります。分からなさを、そのまま相談の出発点にしてかまいません。
感情の名前が出ないことと、困っていないことは違う
「どう感じましたか」と聞かれると、相手が求める答えを探してしまう。「嫌だったと思うけれど、何が嫌か分からない」「何も感じないのに、その場へ行きたくない」ということもあります。言葉が出ないから、その出来事を気にしていないとは限りません。
感情への気づきを扱う研究には、身体の感覚、行動したい方向、一つの感情、混ざった感情などを分けて捉える理論があります。[1] これは、ここで自分の成熟度を採点するための段階表ではありません。気持ちの言葉以外にも、体験を説明する入口があると考える視点です。
忙しくて立ち止まる余裕がなかった、言葉にすると相手を傷つけそうで怖い、複数の気持ちが混ざっているなど、事情はさまざまです。すぐ病名や性格を当てはめたり、幼少期に原因があると決めたりする必要はありません。「今日は言い表せない」という、その時点の状態から考えられます。
出来事・考え・反応・望みを、分けて置く
ここからは説明用の例です。友人と会ったあと、「楽しかったはずなのに、次の誘いに返事ができない」場面を考えます。最初から本当の気持ちを一つ探すより、分かる情報を別々に置くと、相談で扱いやすくなります。
| 入口 | この例で話せること |
|---|---|
| 出来事 | 近況を聞かれ、自分の話題を変えた |
| 浮かんだ考え | 今の仕事のことを話すと比べられそうだった |
| 気づいた反応 | 帰宅すると疲れて、返信を開きたくなかった |
| 今の望み | 次は仕事の話を少なくして会いたい |
ここから「不安」「恥ずかしさ」「寂しさ」という言葉が近いと感じるかもしれませんし、どれもしっくりこないかもしれません。「楽しかった時間はある。でも、仕事を聞かれた部分は重かった」のように、場面を分けたままで十分です。すべてを一つの感情で説明する必要はありません。
表は自作の整理例で、診断や検査ではありません。全欄を埋める宿題にしなくてかまいません。体の感覚が分からなければ飛ばし、出来事の一文だけを相談へ持っていくこともできます。話している途中で言葉が変わっても、最初の説明が嘘だったことにはなりません。
「本当はこう感じるべき」を、横に置いてみる
親切にしてもらったのだから感謝するべき、祝う場だから喜ぶべきと考えると、自分の反応と正解だと思う反応が重なります。「どう感じるべきか」と「実際に何が起きたか」を分けると、言葉にしにくい理由が少し見える場合があります。
たとえば、ありがたい気持ちがあっても、その親切が断りにくくて負担なことがあります。「感謝しているので嫌ではない」と一方を消す必要はありません。相手を悪い人に決めなくても、自分の都合や望まないことは話せます。相手との権限差や、断ると不利益がある条件も、心の中だけの問題にしないことが大切です。
周囲へ気持ちを説明できないときは、「今はよく分かりません。返事には少し時間がほしいです」と、必要な時間を伝える方法もあります。自分の内面を理解しきらないと、休む、断る、詳しく話さないといった選択ができないわけではありません。
言葉を探すことが、つらさを増すときは
感情に言葉を付ける実験では、感情的な画像に対する脳の反応の違いが報告されています。[2] ただし、実験室の結果から、日常で感情名を付ければ必ず楽になるとは言えません。脳の変化の報告は、個人の回復や相談の成功をそのまま保証するものではありません。
「いま何を感じているか」と自分を何度も確かめるほど疲れるなら、言葉探しを中断してかまいません。体の内側に集中することが怖い、気持ち悪さが増す場合も、無理に続ける必要はありません。落ち着く方法は人によって違い、体の感覚を詳しく観察することをこの記事では課題にしません。
言いにくい体験を思い出すことも同様です。気持ちを理解するために、過去を詳しく思い出し直したり、つらかった場面を一人で再現したりする必要はありません。「そこに近づくと分からなくなる」「今は触れたくない」を、相談の進め方の情報として伝えられます。
相談相手に、分からないことから伝える
心理相談では、「気持ちを聞かれると、正しい答えを探して止まってしまいます」「選択肢を出されても、どれが近いか分かりません」と言えます。担当者の言葉が違うと感じたら、「怒りというより疲れに近い」「まだ決められない」と訂正してかまいません。説明を合わせるために同意する必要はありません。
相談の目標も、感情を細かく言えることだけではありません。会ったあと疲れる場面を知る、返事を急がずに済む方法を考える、必要な助けを言葉にするなど、生活に結びついた目的を選べます。言葉の多さを、人間らしさや相談への意欲の尺度にしなくてよいのです。
一方、急に何も感じなくなった、反応や記憶が以前と大きく違う、眠りや食事などにも支障がある場合は、その変化を医療にも伝えてください。身体の変化や使用薬などの情報と併せて確かめ、心理面だけで説明を終えないことが大切です。受診でも、きれいな感情の説明を先に作る必要はありません。
希望が変わった場合も、前に言ったことへ自分を合わせ続けなくてかまいません。「前回は会いたいと言ったけれど、今日は休みたい」と、今の希望を追加できます。気持ちを理解することと、変化を許さないことは別です。
持ち帰れるのは、「気持ちはまだ分からない。でも、この場面のあと返信できなくなる」という話し方です。分からない部分を残して、分かる困りごとから支えを使えます。答えを当てるより、自分の生活に何が起きているかを一緒に考えることから始められます。
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参考・引用文献
- Lane, R. D., & Schwartz, G. E. (1987). Levels of emotional awareness: a cognitive-developmental theory and its application to psychopathology. American Journal of Psychiatry, 144, 133–143. doi:10.1176/ajp.144.2.133.
- Lieberman, M. D., et al. (2007). Putting feelings into words: affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18, 421–428. doi:10.1111/j.1467-9280.2007.01916.x.
記事のつくり方
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このコラムについて
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