ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)とは

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)とは

アクセプタンス&コミットメント・セラピー(acceptance and commitment therapy:ACT)は、避けにくい思考や感情を完全に消すことを行動の条件とせず、その状況で大切にしたい方向に沿って行動を選べる「心理的柔軟性」を支える心理療法です。認知行動療法の流れに位置づけられます。[1]

受容は被害や不正を容認することではありません。また、症状の改善を軽視する方法でもありません。苦痛を減らそうとする努力が、どの場面で生活を支え、どの場面では生活を狭めるかを機能から検討します。

心理的柔軟性を、六つの過程から理解する

ACTのモデルでは、受容、認知的脱フュージョン、今この瞬間との接触、文脈としての自己、価値、コミットされた行為を相互に関連する過程として捉えます。六段階を順に修了するプログラムではなく、その人の行き詰まりと文脈に応じて扱います。[1]

認知的フュージョンは、思考の内容がそのまま事実や命令として働き、行動が硬直する状態として理解します。脱フュージョンでは、その思考を否定したり、無意味だと扱ったりせず、一つの心的出来事として気づく余地を作ります。思考が正しいかという検討が不要になるわけではなく、事実確認と、思考が行動を支配する働きを分けます。

文脈としての自己は、「自分は駄目だ」といった固定的な自己記述だけに自分を閉じ込めず、さまざまな体験に気づく視点に関する概念です。解離して感情を切り離すことや、特別な無我の状態になることとは区別されます。価値は、セラピストが望ましい生き方を与えるのでなく、本人が選ぶ持続的な行動の方向として扱います。

内容より機能を見るとは、どういうことか

同じ「人と会わない」という行動でも、過負荷から休養することと、不安を感じないために大切な関係を一貫して避けることでは機能が違います。行動の形だけで回避を問題視せず、何を避け、短期的に何が得られ、長期的に何が失われているかを一緒に確かめます。[1]

臨床でいう体験の回避は、不快な内的体験に接触しないための努力が大きな代償を伴う過程を指します。気分転換や休息をすべて悪い対処とする概念ではありません。本人の安全、体調、利用可能な資源を踏まえ、柔軟に切り替えられるかが焦点になります。

比喩や体験課題は、この機能を本人が確かめるために用いられます。巧みな比喩を伝えれば変わるというモデルではなく、説明が本人の経験に合っているかを確認します。課題への違和感を「受容が足りない」と解釈すると、ACTが重視する選択と協働が失われます。

有効性の研究から分かることと、分からないこと

2015年のA-Tjakらのメタ解析は、精神・身体の臨床問題を対象とする39件の無作為化比較試験、1,821人を集約しました。これはACTを臨床的に評価する基盤の一つですが、異なる疾患、実施形式、対照条件をまとめた結果です。一つの疾患分類に対する効果量として読むことはできません。[2]

2020年のGlosterらのレビューは20件のメタ解析を、対象となる問題と比較条件に分けて整理しました。[3] 待機や通常ケアとの比較で支持があることと、既に効果の確立した心理療法より優れることは別の問いです。ACTを「従来のCBTを超える方法」と一括して紹介するのは、比較研究の範囲を越えます。

また、症状、生活機能、痛みへの支障、価値に沿う行動は異なるアウトカムです。症状があまり変化しなくても生活が改善する場合がありますが、それだけで苦痛の持続を問題にしなくてよいわけではありません。本人が望む変化、症状の重さ、機能の回復を合わせて評価します。

過程の尺度が改善しても、機序が確定したわけではない

心理的柔軟性の向上をACTの作用機序として仮定することには理論上の意味があります。しかし、柔軟性の自己記入尺度と症状尺度が同時に改善したという結果だけでは、前者が後者の原因だったとは言えません。測定内容の重なり、時間的順序、他の介入過程を検討する必要があります。[1][3]

とくにAAQ-IIは、体験の回避・心理的柔軟性と、苦痛そのものをどこまで分けて測定できるかが論点です。Wolgastの探索的因子分析では、AAQ-IIの項目は、受容を扱う項目より苦痛を扱う項目と強く関連しました。一つの研究だけで尺度全体を無効とするのではなく、過程の得点変化を症状改善から独立した機序の証拠と読めるかを吟味する必要があります。[4]

六過程のモデルも、臨床を整理する枠組みとしての価値と、各過程の独立性・必要性が実験で確定しているかを分けて理解します。療法全体の有効性から、言語理論やすべての比喩の妥当性が一括して証明されたと結論しないことが大切です。

経過を追う際には、「不安がなくなったか」に加え、不安がある場面で選べる行動が増えたか、その選択が本人の価値に合っているか、無理を重ねていないかを確認します。価値に沿う行為が新しい義務や自己批判になっていないかも、柔軟性という目標に照らして見直します。

受容と安全確保、環境調整を両立させる

暴力、ハラスメント、過重労働、貧困による困難を、内面への受容だけで解決しようとはしません。助けを求める、距離を取る、合理的配慮を交渉することも、本人にとって大切な方向への行動になりえます。「変えられる環境」と「今ここに生じている内的体験」を区別することが必要です。

強い苦痛や身体症状、切迫した危機がある場合は、心理療法の選択以前に、医療的評価と具体的な安全支援を組み合わせます。苦痛への接触を一律に増やすことが目標ではありません。本人の同意と調整可能な負荷のもとで進めます。

ACTを検討する際は、対象とする困難についての評価、担当者の訓練、実施形式、改善が乏しい場合の見直し方を確認します。学術的な理解では、「受け入れれば楽になる」という簡略な標語から一歩進み、その人にとって行動の自由がどこで失われ、どう回復しうるかを具体的に捉えます。

参考文献

  1. Hayes SC, Luoma JB, Bond FW, Masuda A, Lillis J. (2006). Acceptance and Commitment Therapy: Model, processes and outcomes. Behaviour Research and Therapy, 44(1), 1–25. doi:10.1016/j.brat.2005.06.006.
  2. A-Tjak JGL, Davis ML, Morina N, Powers MB, Smits JAJ, Emmelkamp PMG. (2015). A meta-analysis of the efficacy of acceptance and commitment therapy for clinically relevant mental and physical health problems. Psychotherapy and Psychosomatics, 84(1), 30–36. doi:10.1159/000365764.
  3. Gloster AT, Walder N, Levin ME, Twohig MP, Karekla M. (2020). The empirical status of acceptance and commitment therapy: A review of meta-analyses. Journal of Contextual Behavioral Science, 18, 181–192. doi:10.1016/j.jcbs.2020.09.009.
  4. Wolgast M. (2014). What does the Acceptance and Action Questionnaire (AAQ-II) really measure? Behavior Therapy, 45(6), 831–839. doi:10.1016/j.beth.2014.07.002.

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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