弁証法的行動療法(dialectical behavior therapy:DBT)は、現在の体験を理解して妥当化する姿勢と、危険や生活の問題につながる行動を変える働きかけを統合した心理療法です。慢性的な自殺行動や境界性パーソナリティ障害(BPD)を持つ人への心理的支援から発展しました。[1][2]
「弁証法」は相手を論破する意味ではありません。受容と変化、本人の限界と学習の可能性など、一見対立する見方を保持して支援を組み立てる姿勢を表します。技能を一つ教えることと、標準的なDBTを提供することは区別が必要です。
妥当化と変化を、どちらか一方にしない
DBTの生物社会モデルは、情動面の脆弱性と、体験が理解・承認されにくい環境との相互作用を重視します。[1] これは家族に原因を一方的に帰属させたり、特定の生物学的異常で全例を説明したりするモデルではありません。個別の経過と現在の条件を評価します。
妥当化は、その人の反応がどの経験や状況から理解できるかを捉え、伝える働きかけです。危険な行動を肯定することではありません。苦痛を理解することと、別の対処を学ぶ必要性は両立します。
行動連鎖の分析では、ある行動に至るきっかけ、脆弱性、思考・感情・行動のつながり、直後と後の結果を具体化します。本人の責任を追及する尋問ではなく、どこに支援や別の行動を入れられるかを探すために用います。
標準DBTと、技能を用いる支援の違い
標準的なDBTは、個人療法、技能訓練、日常場面への技能の適用を支えるコーチング、セラピストのコンサルテーションチームなどを組み合わせます。[2] クライエントを支える仕組みと、セラピストが実践を維持する仕組みの両方を備えた心理的支援です。
技能の主な領域には、マインドフルネス、苦痛への耐性、感情調整、対人関係の有効性があります。[1] 苦痛への耐性は、危機を悪化させる行動を避けながら乗り切るためのものです。長期的な問題解決や、不当な環境への対応の代わりではありません。
面接では生命を脅かす行動、面接や支援の継続を妨げる行動、生活の質を損なう行動など、優先順位を明確にします。どの課題も大切だからこそ、その時点で何を先に扱うかを共有します。技能の紹介だけを受ける講座を、同じ危機対応機能を持つ心理的支援とみなすことはできません。
効果研究は、アウトカムと比較相手を分けて読む
2020年のCochraneレビューでは、BPDを対象とする心理療法の研究が整理されました。DBTには、通常ケアに比べ、BPD重症度、自傷、心理社会的機能を改善する結果がありましたが、個別のDBT比較の証拠の確実性は低いと評価されています。[3]
成人に焦点を絞った2022年のレビューも、DBTの自傷や機能への効果を報告しましたが、単独の介入と、既存の支援に追加する技能訓練を分けています。[4] 二つのレビューは研究が重複するため、独立した証拠として人数や試験数を単純に合算できません。
自傷の頻度、自殺企図、BPD重症度、生活機能、中断は異なる転帰です。一つの指標の改善から、すべての危険がなくなったとは判断できません。また、通常ケアより改善したという結果は、他の構造化された介入すべてより優れることを意味しません。
成分研究から、何を学べるか
Linehanらの2015年の試験は、高い自殺リスクとBPDを持つ女性99人を、標準DBT、技能訓練とケース管理、個人療法と活動群という条件で比較しました。介入は1年、その後の追跡も1年行われています。[2]
このような成分研究は、複合的な介入のどの要素が必要かという問いに近づきます。ただし、技能訓練の条件にもケース管理などの支援があり、孤立した技能の自習を検証した試験ではありません。対象も特定の高リスク集団であり、日常的な感情の揺れすべてへの効果へ外挿しません。
介入期間中に技能の使用が増え、症状も改善した場合も、それだけで技能が唯一の原因だとは決まりません。面接関係、支援へのアクセス、危機の減少、生活の変化などが相互に関わります。パッケージの有効性と個別の作用機序を区別することが必要です。
導入の際は、危機対応と支援の枠組みを確認する
切迫した自殺リスクや重い状態があるときは、外来の心理療法だけで安全を保てるかを評価し、必要な医療や危機対応を組み込みます。DBTという名前があっても、すべての相談機関が同じ連絡体制や緊急対応を持つわけではありません。
本人は、どの形式が提供されるか、個人面接と技能訓練の関係、面接外の連絡範囲、危機時の対応、担当者の訓練について確認できます。提供されない機能を明確にすることも、本人の選択と安全に必要です。
研究では女性が多い集団や特定のサービスが中心となっている場合があり、年齢や性別、併存状態の異なる人への適用では追加の判断が必要です。BPDの診断がない感情調整の困難についても、症状の背景と希望を評価し、技能を使うことと包括的支援を選ぶことを分けて検討します。
参考文献
- Koerner K. (2012). Doing Dialectical Behavior Therapy: A Practical Guide. Guilford Press. ISBN 9781462502325.
- Linehan MM, Korslund KE, Harned MS, et al. (2015). Dialectical behavior therapy for high suicide risk in individuals with borderline personality disorder: A randomized clinical trial and component analysis. JAMA Psychiatry, 72(5), 475–482. doi:10.1001/jamapsychiatry.2014.3039.
- Storebø OJ, Stoffers-Winterling JM, Völlm BA, et al. (2020). Psychological therapies for people with borderline personality disorder. Cochrane Database of Systematic Reviews, 5, CD012955. doi:10.1002/14651858.CD012955.pub2.
- Stoffers-Winterling JM, Storebø OJ, Kongerslev MT, et al. (2022). Psychotherapies for borderline personality disorder: A focused systematic review and meta-analysis. British Journal of Psychiatry, 221(3), 538–552. doi:10.1192/bjp.2021.204.
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