問題解決療法とは

問題解決療法(Problem-Solving Therapy: PST)は、生活上の問題に対する姿勢と具体的な解決技能を扱う心理療法です。助言者が正解を決めることや、つらい感情を理屈で否定することとは異なります。社会的問題解決の理論を背景に、問題の捉え方、選択肢の生成、意思決定、実行と評価を支援します。成人の抑うつについて比較研究が蓄積していますが、理論の妥当性と介入効果の大きさは別々に検討する必要があります。[1][2]

問題への姿勢と解決技能という二つの側面

PSTでいう問題は、本人が達成したい状態と現在の状態の間に隔たりがあり、すぐに使える対処が見つからない状況です。課題そのものだけでなく、「問題があるのは自分が駄目だから」「何をしても変わらない」という捉え方も、取り組みを難しくします。理論では、問題に向き合う姿勢と、解決に用いる技能を分けて扱います。[1]

ただし、前向きに考えれば全て解決するという意味ではありません。病気、喪失、貧困、差別、暴力など、個人の努力では取り除けない条件があります。支援では、変えられる要素、外部の援助が必要な要素、今は解決できない要素を区別します。「解決」を本人だけの責任にすると、PSTの適用そのものが負担になります。

問題を定義して共有する

「毎日つらい」という訴えは重要な入口ですが、そのままでは介入の対象が広すぎます。いつ、誰と、どんな場面で、何が妨げになっているかを整理し、本人が望む変化を観察できる形にします。支援者の優先順位ではなく、本人が取り組む価値を感じ、一定の実行可能性がある目標を共有します。[1]

説明用の例として、仕事の締め切りが重なり休めない場面を考えます。全ての問題を一度に解決するのでなく、業務量の確認、期限の交渉、休息の確保という論点に分けられます。その上で、どの部分に本人が働きかけられ、どの部分は上司や制度による調整が必要かを検討します。これは実際の臨床事例ではありません。

問題の定義には仮説の側面があります。最初は時間管理の問題と思われても、評価を進めると抑うつ、認知機能、睡眠、職場環境が中心かもしれません。本人が実行しなかったことだけを結果にせず、問題の定め方が適切だったかを見直します。

選択肢・意思決定・実行を分ける

選択肢を出す段階では、早く一つの正解へ絞るより、複数の対応を比較できるようにします。意思決定の段階では、効果の見込み、負担、費用、危険、本人の価値観との一致を検討します。実行後には「できた・できない」で終えず、どこまで実行でき、何が予想と異なったかを評価します。[1]

この一連の過程は、クライエントが一人で論理的に考え抜くことを要求するものではありません。抑うつや疲労が強いときには、課題の大きさ、記録、実行の支えを調整します。選択肢が少ない背景が情報不足なら情報へのアクセスを、生活資源の不足なら福祉や医療などとの連携を考えます。

一度選んだ対応を修正することも、問題解決の一部です。うまくいかなかった試みから条件を学ぶことと、同じ失敗を本人の努力不足として繰り返させることは違います。実行できなかった事情も、次の計画に必要なデータとして扱います。

成人の抑うつに関するエビデンス

Cuijpersらの2018年のメタ解析は、成人の抑うつに対するPSTの比較研究を更新しました。総合すると有効性が支持されますが、研究の質や出版バイアスを考慮した効果は小さく、他の心理療法の効果と同程度と解釈されています。直接比較でPSTがやや良いように見える結果にも、研究者の支援方法への支持傾向が関わる可能性が検討されています。[2]

ここから言えるのは、「問題解決の技能を学べばどんな苦痛も解消する」ではありません。対象は主として成人の抑うつで、分類基準への該当状況や重症度、比較群、実施場所、セラピストの条件が異なります。待機や通常ケアとの差と、有効な別の心理療法との差は別の問いです。無対照の改善だけでは、自然経過や期待などの影響を分けられません。

また、PSTという介入パッケージが有効であることと、「選択肢を増やす」という一成分が効果の原因であることは同じではありません。機序を立証するには、その成分の変化が症状の変化に先行するか、別の説明が成り立たないかといった研究が必要です。理論上の説明を、確定した心理過程として紹介しないことが大切です。[1]

他の心理療法との重なりと違い

PSTは認知行動療法と関係が深く、行動計画や認知の検討と重なる部分があります。ただし、個々の自動思考の妥当性を中心に扱う方法と、生活上の問題へ対応する過程を中心に扱う方法では、面接の焦点が異なります。実際の介入には複数の成分が含まれるため、名称だけで手続きが決まるとは限りません。[1]

本人が何を望み、何が困難を維持しているかによって、問題解決へ進む時期も変わります。喪失を悲しむことや、理不尽さに怒ることに対し、すぐ解決策を求めると、その人の経験を十分に理解できないかもしれません。感情を受け止めることと、生活上の対応を考えることは、競合するものではありません。

対人問題であれば、相手との力の差や安全も考慮します。危険な相手との直接交渉を一つの課題として安易に勧めず、保護や第三者の調整を含む選択肢を検討します。本人が操作できない条件へ、技法の限界を明確にすることが必要です。

開始前と経過中に確認すること

開始前には、扱う問題、症状や生活機能、本人の希望、実行を支える資源を共有します。自傷の危険、重い抑うつ、躁状態、認知機能の問題、継続する暴力などが疑われる場合には、問題解決の練習だけで対応しようとせず、必要な評価と支援を先に組み立てます。

経過は、問題解決尺度の変化だけでなく、実際の生活で何が変わったか、課題への負担が増えていないかを確認します。クライエントが提案に同意したことと、家庭で実行可能であることは同じではありません。本人の反応と生活条件を材料に、問題の定義・目標・方法を更新していくことが、PSTを協働的な介入として行う上で重要です。

参考文献

  1. Nezu AM. (2004). Problem solving and behavior therapy revisited. Behavior Therapy, 35(1), 1–33. 論文・書誌情報(DOI: 10.1016/S0005-7894(04)80002-9)
  2. Cuijpers P, de Wit L, Kleiboer A, Karyotaki E, Ebert DD. (2018). Problem-solving therapy for adult depression: An updated meta-analysis. European Psychiatry, 48, 27–37. 論文・書誌情報(DOI: 10.1016/j.eurpsy.2017.11.006)

WRITTEN BY

このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

プロフィールを見る

公開日
最終更新日

記事のつくり方

記事に関連する資料や更新日を確認できます。情報源の選び方や訂正の扱いは、記事のつくり方にまとめています。

心理コラムの記事のつくり方を見る

このコラムについて

ここで紹介する内容は、暮らしの中で気になっていることを考えるための一般的な情報です。今の状況に合わないと感じる部分は、使わなくてもかまいません。ご本人や周囲の安全に差し迫った心配があるときは、緊急の連絡先や地域の相談窓口を利用できます。