人のつらい話を聞いた後、頭から離れなくなるとき

人のつらい話を聞いて苦しくなったときは、相手を見捨てないために聞き続ける必要はありません。相手への日常的な支え、専門家に任せること、自分が休むために必要なことを分けられます。聞いた内容が頭から離れないという、自分自身の困り方も相談できます。

聞き手にも負担は起こり得るが、病名は急がない

友人の経験した被害や家庭の事情を聞いたあと、帰宅しても場面を想像してしまう。「自分は体験していないのに、こんなにつらいと思うのは失礼」と感じることがあるかもしれません。相手と同じ苦しみかどうかを比べることと、今自分が眠れないことに助けが必要かは別です。

他者の外傷体験を聞く支援職については、「二次的外傷性ストレス」という概念で負担が説明されています。[1] ただし、支援職向けの資料を、そのまま友人関係の診断に使うことはできません。話を聞いてつらくなっただけでPTSDだと決める必要もありません。大事なのは、反応の名前より、現在の生活や支えへの影響です。

重い内容に驚いたのか、過去の自分の経験に触れたのか、今も相手が危険にいると心配なのかで、必要な対応は変わります。相手の経験の細部をもっと聞き出せば、自分の不安が解決するとは限りません。分からないことを残しながら、自分の状態を扱えます。

相手の話を聞くことと、解決を引き受けることを分ける

ここからは説明用の例です。友人が深刻な家庭の問題を話し、それ以来、深夜の連絡にすべて対応しないと何か起きる気がして、眠れなくなった場面を考えます。このとき「もっと上手に聞く」だけでは、聞き手の睡眠や、友人が実際に必要とする支援を守れないことがあります。

WHOの心理的応急処置の指針では、本人に話を強いず、必要としていることを確かめ、実用的な支援につなぐことが重視されています。[2] 深い話をすべて語ってもらうことが支援の条件ではありません。友人としてできることを考える際も、内容を詳しく聞くことと、必要な専門先への接点を作ることを分ける視点が役立ちます。

説明例なら、「話してくれてありがとう。ただ、私は夜中いつでも対応できる立場ではないので、続けて相談できる専門の窓口を一緒に探したい」と伝える案があります。本人の希望を確かめたうえで、連絡方法を調べる、最初の相談に付き添える範囲を話すなど、具体的な助けを選べます。勝手に予約や情報共有を進めることは避けます。

連絡の範囲は、関係を続けるためにも相談できる

「今日はここまでなら聞ける」「返事は翌日になることがある」と、自分が引き受けられる範囲を伝えることはできます。時間の線を示しただけで相手が安全になるわけではありませんが、友人一人を常時の相談窓口にする形は続けにくいでしょう。自分が対応できない時間に、どんな正式な支援を使えるかを本人と確認します。

差し迫った生命の危険や暴力などがある場合は、通常の会話や心理相談の予約を待つ問題として扱いません。自分だけで見守り続ける約束をせず、緊急の安全確保や医療、適切な専門機関の助けを優先します。「誰にも言わない」という絶対の約束を、危険のある場面でも守り通す役目を背負わないでください。

一方、今すぐの危険がないのに、自分の不安を軽くするため本人の意向を無視して周囲へ話すことも避けます。共有の必要があるときは、誰に何を伝えるか、本人と確認できる範囲を考えます。判断に迷う聞き手自身が、専門機関へ対応の相談をする方法もあります。

頭の中の場面と、今ここにある情報を分ける

何度も浮かぶ場面が、相手から実際に聞いたことなのか、自分が想像で補ったことなのかを区別できると、何を確認したくて苦しくなっているかが見えることがあります。すべての想像を消そうとしたり、本人へ細部の確認を重ねたりする必要はありません。

その夜は、関連するニュースや体験談の検索を続けるより、食事や普段の用事など、今の生活に必要なことを先にする選択があります。気がそれない日もあります。休むための工夫が合わないと感じたら、それを自分の弱さとせず、睡眠や生活への影響を専門家に話してください。

自分を傷つける強い刺激や、相手の話を頭の中で再現することを、立ち直るための練習にする必要はありません。本人の体験を理解することと、自分が同じ苦しさを再現することは別です。つらさを増す方法から離れることは、相手の苦しみを軽く扱う行為ではありません。

自分の相談では、相手の情報を必要以上に持ち込まない

心理相談には、「友人の重い話を聞いたあと、眠れず連絡を待ち続けてしまう」と、自分に起きていることから話せます。相手の氏名、勤務先、メッセージ全文、特定につながる細部を最初から全部渡す必要はありません。相談に必要な情報の範囲は、担当者へ確かめられます。

支援職としての困りごとなら、所属機関の正式な相談やスーパービジョンなどを、情報管理の規則に沿って使います。友人として聞いている場合にも、専門職の責任を自分が担う必要はありません。相談で扱えるのは、自分の疲れ、断る怖さ、罪悪感、助けをつなぐ際の戸惑いなどです。

専門先への紹介を相手が今は望まない場合も、あなたができることの範囲をなくす必要はありません。「相談するかはあなたが決めてよい。ただ、私一人で毎晩対応する形は難しい」と、本人の選択と自分の限界を並べて伝えられます。説得がうまくできなかったことを、相手の状態すべてへの責任にしなくてよいのです。

相手のつらさを大切にすることと、自分の休みを守ることは両立します。「どこまでなら関われるか」と「自分だけでは担えないこと」を具体的にするのが、今日持ち帰れる視点です。誰かを助けたい人自身も、支えを受ける側に回ってかまいません。

関連する内容は、ストレスコーピングとは、ヤングケアラーとして負担を抱えているとき、トラウマとPTSDの違いでも読めます。

参考・引用文献

  1. National Child Traumatic Stress Network. (2011). Secondary Traumatic Stress: A Fact Sheet for Child-Serving Professionals.
  2. WHO. (2011). New psychological first aid guide to strengthen humanitarian relief.

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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