認知処理療法(Cognitive Processing Therapy: CPT)は、PTSDに対して開発されたトラウマ焦点認知行動療法の一つです。体験に関する自責や、自己・他者・世界についての硬直した意味づけを検討し、現在の生活を妨げる解釈を柔軟にすることを目指します。「出来事を前向きに考え直す」「被害を本人の考え方の問題にする」という意味ではありません。[1][2]
何を処理する心理療法なのか
同じ体験でも、「止められなかった自分が悪い」「誰も信用してはいけない」といった結論が、罪悪感、羞恥、警戒、対人回避と結びつく場合があります。CPTは、体験後の意味づけを共同で検討し、その考えが形成された背景と、現在の証拠や文脈を確認します。苦痛を感じること自体を誤りとして訂正する介入ではありません。[1]
重要なのは、責任を否定する言葉を支援者が一方的に与えることではなく、本人が結論へ至る過程を理解できるようにすることです。後から知った情報を当時も知っていたはずだと考えていないか、選択可能性や強制を適切に捉えているかなどを検討します。犯罪や暴力の責任を被害者へ移す説明とは、目的が異なります。
感情が強いから認知の検討をしてはいけない、あるいは認知を扱えば感情を十分に経験しなくてよい、と単純に分けることもできません。意味を語る中で記憶や感情へ注意が向くことがあります。介入の中心作業と、それによって生じる反応を区別してモニタリングします。
記述課題のある形式と認知中心の形式
CPTには、体験の記述と読解を含む形式と、認知への働きかけを中心に行う形式があります。Resickらの2008年の成分分解試験は、対人暴力関連PTSDの成人女性150人を、完全なCPT、認知療法中心のCPT-C、体験の記述を中心とする条件へ割り付けました。介入時間を揃え、介入後と6か月後にも評価しています。[2]
全条件で改善がみられ、認知中心条件は記述中心条件より介入中のPTSD症状の改善が良好でした。ただし、成分を除去すると残る成分へ割く時間が変わり、記憶と意味を完全に分離することも難しいため、「認知だけが唯一の作用機序」とは結論できません。[2]
この違いはクライエントにとって実際の取り組みの違いになります。何を書き、どこまで体験を扱い、面接外でどのような作業があるのかを確認します。名称だけから「必ず詳しい記述が必要」「一切記憶に触れない」と決めないことが大切です。本稿は課題を自己実施するための指示ではありません。
有効性を支える比較試験
2002年の無作為化比較試験では、慢性PTSDのある女性の性暴力被害者171人が、CPT、PE、最小限の接触を伴う待機条件へ割り付けられました。独立した評価者によるPTSD尺度などで検討され、CPTとPEは対照条件より良好で、介入後3か月・9か月の評価も行われています。[1]
効果を理解する上で、対照条件が何だったかは重要です。待機条件との差が大きいことと、別の積極的介入より大きく優れていることは別の結論です。また、この試験は女性の性暴力被害者を対象としており、全ての年齢、体験、併存症へ同じ結果を保証するものではありません。
症状尺度の改善、PTSDの分類基準を満たさなくなること、仕事や対人関係の回復は区別して把握します。介入の平均効果から、特定のクライエントがどれだけ改善するかを事前に確定できません。途中で継続が難しくなった人や、十分な改善が得られない人も含め、経過の評価が必要です。
認知を扱うときの臨床的な注意
「それは考えすぎです」「別の見方をしましょう」と早急に伝えると、経験を否定されたと感じられるかもしれません。現実に危険が続いている場合や差別・搾取がある場合には、その認識を全て認知の歪みとして扱ってはいけません。現在の条件を評価し、変えるべき環境と、苦痛を維持する一般化された結論を分けます。
支援者が正しい答えへ誘導して本人が同意しただけでは、生活の変化を示したことにはなりません。本人が新しい理解をどう受け止め、どの場面で使い、どの反応が残るかを確認します。自責が減った結果として悲嘆や怒りを感じるなど、感情の変化にも単純な良し悪しをつけません。
意味づけの変化が介入の理論上重要であることと、それが症状改善を生む唯一の因果過程として実証されたことは異なります。セラピストと研究者は、妥当な介入の説明と、確定していない機序の説明を分ける必要があります。[2]
適応と支援計画を共有する
開始前には、PTSD症状、解離、気分症状、睡眠、物質使用、現在の安全、読み書きや注意の負担、面接外の時間を評価します。書面を使う形式では、言語や認知、文化的な違いも考慮します。「書けるから適応」「書くのが苦手だから不適応」と一要因で決めるものではありません。
介入中は、記録課題を完了したかだけでなく、PTSDと関連症状、日常の回避、生活機能、面接後の負担を確認します。課題が進まなかった事情や、支援者への違和感も計画を見直す情報です。反応が乏しい場合には、状態像や維持要因、実施内容、別の支援の必要性を再評価します。
PTSDを扱う訓練とCPTの訓練、指導・相談体制を持つ医療・心理機関で、具体的な形式や予定される負担について確認してください。本稿はALVARAでCPTを必ず提供するという案内ではありません。PTSDの心理療法の比較も参照できます。
参考文献
- Resick PA, Nishith P, Weaver TL, Astin MC, Feuer CA. (2002). A comparison of cognitive-processing therapy with prolonged exposure and a waiting condition for the treatment of chronic posttraumatic stress disorder in female rape victims. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 70(4), 867–879. 論文・書誌情報(DOI: 10.1037//0022-006X.70.4.867)
- Resick PA, Galovski TE, Uhlmansiek MO, Scher CD, Clum GA, Young-Xu Y. (2008). A randomized clinical trial to dismantle components of cognitive processing therapy for posttraumatic stress disorder in female victims of interpersonal violence. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 76(2), 243–258. 論文・書誌情報(DOI: 10.1037/0022-006X.76.2.243)
記事のつくり方
記事に関連する資料や更新日を確認できます。情報源の選び方や訂正の扱いは、記事のつくり方にまとめています。
このコラムについて
ここで紹介する内容は、暮らしの中で気になっていることを考えるための一般的な情報です。今の状況に合わないと感じる部分は、使わなくてもかまいません。ご本人や周囲の安全に差し迫った心配があるときは、緊急の連絡先や地域の相談窓口を利用できます。
