大人になって発達特性が気になったとき|診断と生活の相談を分けて考える

大人になってから「自分には発達上の特徴があるのかもしれない」と気づくことがあります。診断で確かめたいことと、今の仕事や暮らしで助けが必要なことを分けると、相談の入口を考えやすくなります。

今になって気づいたことと、急な不調を分けて考える

昔から段取りが苦手だった、会話の意図をつかむのに時間がかかるなどの経験を、就職や役割の変化の後で捉え直す人もいます。それまで周囲の手助けや自分の工夫で生活できていて、大人になって初めて困難が目立つ場合があります。[1] 長く働けていたことだけで、発達上の特徴の有無は決まりません。

「発達特性」は、情報の受け取り方や注意の向け方、変化への対応などの特徴を指して使われる言葉です。自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの診断は、一つの特徴や短いチェックリストへの当てはまりだけで決まりません。発達の経過、複数の生活場面での様子、困難の広がりなどを医師が確認します。[3][4]

一方、最近急に集中できない、眠れなくなってから忘れやすい場合は、もともとの特徴だけに理由を決めないことが大切です。不安、抑うつ、睡眠の問題などが似た困難を起こしたり、発達上の特徴と重なったりする場合があります。[2] 急な記憶や体調の変化、強い不眠や落ち込みがあるときは、発達の専門外来を待つだけでなく、かかりつけ医や精神科・心療内科等へ今の不調を相談できます。

「仕事ができない」を、一つの場面に戻してみる

ここでは説明用に作った例を使います。午前中に口頭で三つの依頼を受け、途中で締切が変わったことを見落としました。以前の部署では作業の順番が一覧にあり、今ほど困らなかった、とします。「自分は発達障害だから」と結論を急ぐより、どこで進めにくくなったかを分けると、今日頼める助けが見えてきます。

この例で困っていること 相談できる助けの例
口頭の依頼を覚えている間に、別の依頼が来る。 依頼を一つの一覧やメッセージに残せるか相談する。
締切が変わったとき、どちらを先にするか分からない。 変更時に、優先する作業と締切を上司と確かめる。
作業内容は分かるが、いつ完成とするか迷い続ける。 完成の見本や、途中で一度確認する機会を相談する。

依頼を覚えること、順番を選ぶこと、変更後に切り替えることは、同じ「段取り」の中でも違う作業です。説明用の言い方なら、「口頭の依頼が重なると、変更を追えなくなります。依頼と締切を同じ場所で確認できる形を相談したいです」と伝えられます。この表は診断のための項目ではなく、困る場面と助けを結びつける例です。

書面の一覧が助けになっても、それが発達障害の証明になるわけではありません。逆に、工夫しても進まないなら、仕事量や説明の不足、疲れ、ほかの体調の問題も考えます。変更できる部分を本人の努力だけへ戻さず、職場や専門家と扱えます。環境が変わった直後の負担は、異動・昇進・転職後のストレスの記事でも説明しています。

診断や検査は、何を知るために受ける?

受診では、今の困り方に加え、子どものころからの様子、学校や家庭、仕事での経験、心身の病気などを尋ねます。ADHDや成人のASDのガイドラインでも、発達歴と現在の生活、ほかの状態を合わせた評価が重視されています。[3][4] 子どものころの話を聞くのは、困難がどう続き、支えや環境がどう関わったかを知るためです。

通知表、母子健康手帳、過去の検査結果など、すでにある資料が役立つ場合があります。[5] 手元にない、家族へ連絡しにくい、昔のことを覚えていない場合は、その事情を予約先へ伝え、何を確認できるか相談してください。資料を完全にそろえることを、自分で受診の条件にしなくてかまいません。

質問紙は、詳しく確かめる点を探す手がかりになります。知能検査などは、検査が対象とする認知の働きや取り組み方を理解する助けになりますが、得点の高低や得点差だけでASD・ADHDの診断は決まりません。知的な力と、日常で予定を立てて実行する力が一致しない場合もあるため、仕事での具体的な困り方を一緒に伝えます。[3][4] 検査の目的と限界は、心理検査一覧の記事でも説明しています。

先ほどの例なら、「発達障害か知りたい」に加え、「口頭の依頼が重なると止まる理由を知りたい」「今の不眠への治療も考えたい」と目的を話せます。結果を受け取った後は、何が分かり、何がまだ分からないか、どんな助けにつながるかを聞けます。診断名がつかなかった場合も、仕事や生活で困っていることの相談は続けられます。[3]

診断、仕事の支援、気持ちの相談は窓口が違う

医療で確かめたいこと

成人の発達障害を診療する精神科・心療内科等へ、対象年齢、診断や検査に対応するか、予約方法を確認します。すべての医療機関で同じ検査や診療を行うわけではありません。地域の情報が分からなければ、市区町村や発達障害者支援センターへ「成人の診療に対応する先を知りたい」と尋ねられます。[1][6] 薬が必要か、ほかの心身の不調をどう治療するかは、医師と話し合う内容です。

生活や働き方を助けてほしいとき

発達障害者支援センターは、生活や職場での困りごとの相談、関係機関の紹介などを担います。[7] 診断前の相談先探しもできるので、住んでいる地域の窓口へ、成人本人の相談の受け方を確認できます。就職や職場への適応には、地域障害者職業センターなどの就労支援もあります。[8]

地域障害者職業センターは、障害者手帳がなくても利用できると案内しています。ただし、「手帳が不要」と「診断や必要資料を一切確認しない」は同じではありません。利用できる支援や対象は制度・窓口で違うため、今の状態と相談したい内容を伝えて確かめます。[8] 診断がないとすべての相談が始められない、ということではありません。

受診への迷いや、自分を責める気持ちを話したいとき

心理相談では、繰り返す失敗へのつらさ、周囲に伝える怖さ、診断を受けるか迷う気持ちも扱えます。困る場面と、希望する助けを一緒に言葉にすることもできます。ALVARAの個人向け心理相談は18歳以上が対象です。成人の発達診断、発達・知能検査、薬の処方や、発達障害の専門治療を提供するという意味ではありません。医療や就労支援が必要なら、対応する窓口を使うことも含めて考えます。

職場へ何を伝えるかは、目的と範囲から考える

日常の業務の相談では、「締切の変更を同じ一覧に残したい」のように、困る場面と希望する進め方から話す方法があります。制度に基づく配慮や支援を希望する場合は、人事や障害のある社員の相談窓口、産業保健の担当者などへ、手続きと必要な情報を確認します。雇用分野の合理的配慮の対象は、障害者手帳の有無だけで限定されませんが、職業生活への影響などを含めて個別に確認されます。[9] 希望した方法がそのまま実現することを約束するものではありません。

診断名や検査結果は個人情報です。「何のために、誰へ、どの範囲まで伝えるか」「提出した書類は誰が扱うか」を、医療機関や職場の正式な窓口と相談できます。[6][9] 困り方を説明することと、検査報告書の全体を周囲へ見せることは同じではありません。威圧や不利益が心配な場合は、一人で同僚へ説明を重ねず、外部の支援者と伝え方や窓口を考えられます。

最初の相談の一言なら、「以前から__で困り、今は仕事の__に響いています。__があると進めやすいです。診断で確かめたいことと、今使える助けを分けて相談したいです」。これは説明用の例です。分からない所は空いたまま、思い出せる一場面から話せます。

参考・引用文献

  1. 政府広報オンライン(2026年2月12日)「発達障害に気付いたら?大人になって気付いたときの専門相談窓口」.
  2. Centers for Disease Control and Prevention(2026年10月9日更新). ADHD in Adults.
  3. National Institute for Health and Care Excellence(2018). Attention deficit hyperactivity disorder: diagnosis and management. NG87. Recommendations 1.2.10, 1.3.1–1.3.4, 1.4.4.
  4. National Institute for Health and Care Excellence(2012、2021年改訂). Autism spectrum disorder in adults: diagnosis and management. CG142. Recommendations 1.1.2–1.1.3, 1.2.5–1.2.10.
  5. 国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター「医療・相談機関へ行くときには」.
  6. 発達障害ナビポータル(2021年8月10日)「診断や医療機関への受診について」青年期・成人期.
  7. 国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター「発達障害者支援センターの事業内容」.
  8. 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用関係のご質問と回答」地域障害者職業センターの利用について/支援施策の適用について.
  9. 厚生労働省「障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A」第三版. Q1-3-1~1-5-1、Q4-5-1.

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このコラムを書いた人

齋藤 光公認心理師・臨床心理士

ALVARA Counseling Services代表。公認心理師・臨床心理士として相談に携わり、日々の暮らしや人との関わりを考えるための情報を執筆しています。

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このコラムについて

本記事は一般的な心理情報の提供を目的とし、判断・支援の代替ではありません。記事で紹介する心理療法・支援法のすべてを当サービスが提供していることを示すものではありません。体調や安全に不安がある場合は、医療の窓口または地域の相談窓口をご利用ください。